相棒

―ウィスティリア家…
―あの一族につくのか…
―反旗を翻して…
―お前達も…


―すまない、ウィスティリア、君達1家も改竄する。





「…っ!?」

目を開けると、薄明りの中、土の天井が見えた。
何、今の夢。
真っ暗な中、知らない声が聞こえる、変な夢だった。

「起きたか」

土の天井から声の聞こえた方へ視線を移すと、リヴァイが片膝を立てて座って、私に横顔を見せていた。

「…ここ、は」
「洞窟だ」
「どうくつ…?」

どうして洞窟に…?
私は目を閉じる前の出来事を混乱する中、記憶を辿る。

「…私達、巨人に…」
「そうだ、巨人に遭遇した」
「その後を覚えていないの。どうなったの…?」
「俺とお前は手を払った巨人に飛ばされた。落ちた先が木の葉が多く茂った場所だった。その木を降りた先にこの洞窟を見つけた」
「それで…ここに運んでくれたの?」
「あぁ。馬も無事だ、入口に居る」
「私達を襲った巨人は…?」
「知らん。特に追っては来なかった。この洞窟も入口が狭く、巨人は入ってこない」
「そう…掴まれなくて良かった」
「身体は痛むか?」

リヴァイにそう尋ねられ、横になっていた自分の身体を起こした。
木々の葉がクッション代わりになってくれたのだろう。
大きく痛む箇所は無かった。

「…ううん。骨とかも大丈夫そう」
「そうか」

10メートル級以上だったら、払った手に当たっただけで大怪我をする。
遭遇した巨人が小さかった事も幸いしたのだろう。
ふと下を見ると、野営用の布が敷かれていた。
私のお腹の上には、私のブランケットも。

「これ、持ってきてくれたの」
「ランタンが必要だった。ついでに持ってきただけだ」

上を見ると、雨具が几帳面に2人分、干されていた。

「雨具まで…」
「今は雨風が強い。弱まったらここを出るぞ」
「…うん。本隊に合流しないと」
「…出来るのか」
「ここに経験のある団員がいるから大丈夫だよ」

私は自分の胸を指差した。
リヴァイは私の仕草を横目で見て、そしてまた横を向いてしまった。

「おい」
「ん?」
「…すまない」
「……………え?」

今、リヴァイ、謝った?
状況が飲み込めず、リヴァイの横顔をぽかんと見た。

「俺があんな状態にならなきゃ、お前を巻き込まなかった」
「あぁ、うん。そうだけど、でも、リヴァイは謝らなくても良いんじゃないかな」
「あ?」
「誰にだって、身体が動かなくなる位、辛い経験ってあるよ。私だってそうだし、他の団員だって」
「…お前もあるのか」
「うん」

私は両膝を立てて座り、リヴァイの横顔に向き合った。

「さっき話した本隊に合流したって話、あれ、私が初めて壁外調査に出た時の話なんだ。居た先輩団員が全員巨人にやられちゃって、1人ぼっち…あ、馬は居たけど、指示を仰ぐ人が誰も居なくなっちゃったの」

ランタンに横顔を照らしていたリヴァイが静かに私の方へ向いた。
壁外調査に参加している団員なら誰もが、そんなこと出来るのか?と疑問に思う。
リヴァイもそんな表情をしていた。

「色々工夫をして、夜まで待った。巨人の動きが鈍くなれば、1人という機動性で野営地まで行けるかもしれないって。賭けだった。でも、その時は賭けに勝った」
「…随分とデケェ賭けだ」
「今思うとね。でも、その時は必死だったし、改めて考えても、他に合流出来る案は無かったと思ってる」
「…そうか」
「あの後は暫く、夢に巨人や、亡くなった仲間が出てきた。寝れない日もあったし、壁外に出ることが怖いと思ったことだって何回も。…君だけじゃないよ、リヴァイ。皆が巨人と、自身と、色んなものと戦ってる。だから…」

そこで言葉を切った。
リヴァイの三白眼が私に向いた。

「だから、何だ」
「これは私からのお願いだから、無理にとは言わない」
「何をだ」
「もっと、頼って欲しい。リヴァイは、何となくだけど、何でも1人で解決しようとしてる気がする」
「…分からないことはお前に聞いている」
「そういうことじゃなくて…ゴメン、今の話忘れて。私も良く分からずに話してる。さっき頭打ったかな…」


さっきのこともそうだけど、リヴァイは1人で抱え込んでいることが多いんじゃないか、ずっとそう思っていた。
どこかで線を引いて、その線から内側に誰も入れないような。
だから、もっと打ち明けて、その背負ったものを軽くして欲しい。
もっと身軽に、もっと簡単に、この世界に慣れて生きて欲しい。


はは。と笑ってみたけど、リヴァイは変わらずジッと私を見る。
古城の屋上で見つめた時みたいに。

「…昔、ファーランにも同じことを言われた」
「そうなの?」
「あぁ。あいつから見たら、俺は不器用な人間らしい」
「ファーランは人当たりが良かったからね、きっと器用な人なんだよ」
「お前もそう思うか?」
「どっちを?」
「俺が不器用だと思うか」
「…うん、思うよ」
「…そうか」

私の返事を聞いたリヴァイはまた、横顔を見せる体勢に戻る。

「…努力しよう」
「え?」
「出来るかどうか分からねぇ約束は出来ない」

リヴァイなりの歩み寄り方なのかな。
今の答えにそれが見えて、何だか嬉しくて、ほんの少しおかしくて、私はクスリと小さく笑った。

「そうして下さい」

話も一区切りついたので、私は自分の荷物から地図を取り出した。

「リヴァイ、暗くなったら動くから、ルートの確認をしよう」


※※


「エルヴィン」

野営のテントで仮眠を取っていた俺を起こす声が聞こえた。
目を開けると、ミケが居た。

「どうした」
「そろそろ夜が明ける」

期待していた答えでは無かった。

「…分かった」

預けていた岩から背を離し、立ち上がる。
と、ミケが鼻を上げた。

「居るのか」
「微かだが…。先に外に出る」
「あぁ」

ミケは外に出て、そのまま立体起動に移った。


あの2人は、帰ってこなかったのか。
昨晩、帰ってこないとなると、正直希望は持てない。


煙弾の音が聞こえた。
テントの外に出ると、少し離れた岩の上でミケが煙弾用の銃を構えていた。

「巨人だ!近いぞ!」

ミケの言葉を合図に続々と仮眠を取っていた団員がテントから出てくる。

「各分隊、撤退の準備急げ!」

キース団長が団員に発破をかけながら俺の元に歩いてきた。
敬礼を見せる。

「団長」
「エルヴィン、もう待てないぞ」
「…はい」
「あの2人が本隊から離れて半日以上が経つ。…残念だ」

団長は俺の肩を叩き、指揮に戻っていった。


前回、アネモネが本隊から逸れ、合流出来たのは約半日後。
それが合流出来る限度だと仮定されている。
それ以上の時間逸れた場合、巨人との遭遇率が上がり、合流は難しくなる、と。
今回も1晩待った。
だが、来なかった。


「エルヴィン!」

岩から更に高い木の上に移動したミケが俺を呼んだ。
立体起動を使い俺も木の上に上がる。

「どうした」
「マズい」

見ていた遠眼鏡を俺に渡す。
覗いてみると、先の林の木が倒れた。

「…20メートル級か」
「いや、大きさじゃない」

遠眼鏡を外しミケを見る。

「奇行種の可能性がある。しかも複数体」

ミケの報告を聞いて下を見た。


撤退は間に合うか。
先に索敵班を出すか。
索敵班を編成するとなると、誰を使う。


「マズいっ」

先遣の判断を考えているとミケが小さく叫んだ。
大きな影が差す。
見上げると、巨人が今にもここに着地しようとしていた。

「物陰に隠れろ!」

地上の団員に指示を飛ばし、俺も木の幹にアンカーを刺した。
低い音を立てて巨人が野営地に降り立った。

「飛んだのか」
「あぁ。間違いなく奇行種だ」
「エルヴィン!」

横を見ると離れた木の枝に団長と数人の団員が立っていた。

「このままだと全滅する!動ける者だけで討伐するぞ!」
「了解しました!」

今立体起動で動ける者は俺にミケ、そして団長と共に居る団員。
他の団員は上手く隠れられたのか。
こちら側は巨人の背中にあたる為、確認することが出来ない。

「うわぁ〜!」
「いやだぁ!!」

巨人が腕を動かす、団員が2人、両腕に握られていた。

「行くか、エルヴィン」

項は十分に狙える、しかし相手は奇行種、どう動くか予測が難しい。
俺とミケで行くか、まずは団長と共に居る団員に囮を頼むか。


考えろ、決断をしろ、何が1番最適か。


その時、森の中から、2人分のマントが、俺の両側を靡いた。


.