追走

「もう直ぐ夜が明けるな…」

走って来た道を振り返りながら、リヴァイが呟く声が聞こえた。
山の向こうから今にも日が登りそう。

「そうね」
「着けそうか」
「うん。この森を抜けた先だからもう直ぐだよ」

頭の中で地図を思い出しながら答えた。


壁外調査時は野営の候補地を複数設ける。
巨人の遭遇や進行の計勢によって、その場所を見極める為だ。
今回は3カ所候補地がある。
私達は既に2つ通った。
最後の候補地、そこに兵団が野営をしている。


「日が出切る前に着けそうで良かった…」
「おい、止まれ」
「え?わっ」

私の前を走っていたリヴァイが馬を並走させ、私の馬の手綱を引いた。
驚いた馬が少し反って止まった。

「どうしたの?」
「あれを見ろ」

リヴァイが右にある小さな林を指差した。
風も無いのに木が揺れている。

「…巨人?」
「恐らくな。野営地はこの先か」
「真っ直ぐ行った所」
「念の為、回り道をするぞ」
「分かった」

馬を左側に向けて再び走り出す。
木が更に大きく揺れた。

「…10メートル級…それ以上かしら」
「今は合流が先だ。余所見するんじゃねぇ」
「うん」

森の切れ目に沿って走っていると、煙弾が上がった。

「皆も巨人に気が付いたみたい」

林の木が倒れるのが見えた。
10メートル級…いや、もっと大きい。
巨人に気が付いて、直ぐに立体起動装置を付けられたとしても、作戦立案が間に合うか…。
撤退の手筈は壁の中でも訓練を行っている、が、皆同じように動けてるか。
エルヴィン分隊長が居るから、大丈夫か…。

「えっ」

倒れた木の辺りを目で追いつつ、馬を走らせていると、林から巨人が飛んできた。

「奇行種!?」

飛んだ巨人は森の先に着手した。
大きい、20メートル級はある。

「あの場所…野営の予定地だ」
「兵団の奴らに反応をしたんだろう」
「リヴァイ、立体起動に移ろう。森の中は馬より早い」
「分かった」

走ったままの馬から手綱を離し、トリガーを取り出した。
そのままアンカーを放ち、立体起動に移る。

「お前が先導しろ」
「分かったわ」

正確な位置が分かっている私が先にワイヤーを放つ。
その後にリヴァイが続いた。

「おい」
「何?」
「討伐の準備もしておけ」
「…うん」

グリップを握り直す。
この時間だと、仮眠を取っている団員が多い。
直ぐに討伐にはかかれないだろう。
となると、奇行種の相手をする可能性は十分にある。
改めて気を引き締めた。

「抜けるわ」

森の先に光が見えた。
幹に2人の団員の姿。

「ミケさんと分隊長…!」

後ろ姿からミケさんとエルヴィン分隊長だと分かった。
その先に、背を向けている奇行種が見えた。
奇行種は両手に団員を握っていた。

「応戦が間に合わなかったのね…リヴァイ!」
「あぁ」

2人の横を通り抜け、そのまま巨人に飛んだ。
奇行種の項に切りかかる。

「…!ダメだ…!」

10メートル級を超えると、どうしても私の力だと1撃で仕留められない。
浅く切り付けたカ所をリヴァイが改めて切り付ける。
項から切り取られた肉片が飛ぶ。
削ぎ落せたようだ。
両手に握られていた団員も離され、地面に落とされた。

「大丈夫で…!」
「馬鹿野郎!余所見するな!!」
「え?」
「もう1体来るぞ」

落とされた団員に向かって飛ぼうとすると、リヴァイが声を荒げた。
林の方から、木の折れる音と供にもう1体、姿を現した。

「まだ居たの!」
「行くぞ。ここに来られちゃあ面倒だ」

リヴァイがガスを吹かせ林に向かって飛んでいく。
私も後に続いた。
もう1体の巨人は飛んでくること無く、真っ直ぐに野営地へ走って来た。

「奇行種では無さそう」
「油断するな」
「分かってる」

ワイヤーを伸ばし加速する。

「リヴァイ!先に目を!!」
「分かった」

真正面から走ってくる巨人を、まずは目を攻撃し、そして項を削ぐ作戦。
早速行動に移す。

ワイヤーを外しガスを吹かした。
アンカーを巨人の目の近くに飛ばし、刺した。
ワイヤーの力で加速し、それぞれ片目づつに刃を突き刺す。
巨人が吠えて暴れ始めた。
その衝撃で私は巨人に身体を打ち付けた。

「いてっ」

刺さった刃に繋がったトリガーを持ち直し、態勢を整える。
リヴァイは既に刃を取り外し、巨人から離れ、ワイヤーを伸ばしながら新しい刃を装てんしていた。

「リヴァイ!そのまま項を!」
「あぁ」

私も離れようとアンカー部分のトリガーを操作した。

「…あれ」

金属が空回るような音を立てるだけでアンカーが外れない。

「う、嘘でしょ…」

今の衝撃で、アンカーが故障をしたんだ。

「おい!」
「そのまま項を!私に構わないで!!」

こうなったらアンカーを穿って出そう。
両足で踏ん張って、新しい刃を付け、アンカー付近に突き立てた。
痛感があるのか分からないけど、巨人が更に暴れた。

「アネモネ!!」

リヴァイが私の名を叫んだ。
そして私に影が差す。
見ると巨人の掌が私の目の前に来ていた。
あぁ、これは本当にマズい。




横から人が飛んできた。
そして私を抱きしめる様に抱える。
私より大柄で、そして金色の髪が見えた。




「エルヴィン分隊長…!」
「アネモネ、掴まりなさい」

分隊長は素早い動きで私の腰の立体起動装置のベルトを外した。
私は分隊長の脇から手を差し込み、肩甲骨辺りに手を回した。
分隊長の立体起動で巨人から離れる。

「リヴァイ、やれ」

的確な指示を出した分隊長に答えるように、リヴァイは巨人の項を削ぎ落した。
分隊長は近くの木の枝に着地した。

「無事だったか」
「は、はい…ありがとうございます」

目を見てお礼が言いたくて分隊長を見上げると、私をジッと見ていた。

「分隊長…?」
「君は何時も俺の思考を飛び越えてくる」
「思考…ですか?」
「あぁ」

分隊長は私に対してどんな思考をしているんだろう。
尋ねようとすると、分隊長の大きな手が私の頭を撫でた。

「合流出来て良かった。怪我は無いか?」
「はい…大丈夫です」

1晩分の苦労を労われてるような気分になり、私はそのまま分隊長の大きな手に頭を委ねる。
ヒュ…と音が鳴った。
分隊長手が私の頭から離れてしまう。
何の音だろうと見上げると、そこにあったのは刃。

「え」
「おい、いつまでくっ付いていやがる」

刃の主はリヴァイだった。
鬼の様な形相で睨んでいる。

「リヴァイ…!上官にブレード向けるなんて!」
「用が無いなら離れろ」
「ぐぇ」

リヴァイは私の雨具の襟元を引っ張って自分の方に寄せる。
お陰で変な声が出てしまった、そして苦しい。

「ちょっと!リヴァイ!!」
「お前も無事だったか、リヴァイ」
「…あぁ。こいつが居たお陰で助かった」
「…そうか」


2人のやり取りに妙な緊張感を感じた。
何だろう、どうしたんだろう、2人供。


「アネモネ!リヴァイ!!無事だったんだね」
「ハンジさんっ!」

立体起動で、私達の元へハンジさんがやって来た。

「いや〜。夜中に合流出来なかったから、正直駄目かと思ってたけど、流石だね〜」
「何とか合流出来ました」
「今回はどんな感じで合流したの?詳しく教えてよっ!」
「その前に野営を片付け出発の準備だ、ハンジ」
「あぁ、そうだったねエルヴィン。今近くを見回ったけど、他の巨人は見えなかったよ」
「負傷者は」
「さっき巨人に掴まれた2人も無事、動けるよ。他の団員は上手く隠れてたから怪我人は居ない」
「分かった。アネモネ、リヴァイ」
「はい」
「団長に簡潔な報告後、フラゴンと合流しなさい」
「承知いたしました」
「ハンジ、アネモネに予備の立体起動装置を」
「分かったよ、渡しておく」

私が敬礼を見せると、分隊長は立体起動で移動をして行った。

「さぁて、アネモネ、君を地上まで連れて行かないとね」
「お前は下がっていろ、クソメガネ。俺がやる」
「リヴァイが?」
「ちょっと、リヴァイ。その呼び方ダメだって…」

私の指摘を無視してリヴァイは抱き寄せてくる。

「…そういえば、リヴァイ」
「何だ」
「さっき私の名前呼んだように聞こえたけど」

腰に回ってきた手が数秒止まる。

「やっぱり呼んだ?」
「…………気のせいだ」
「いや、今の間、何」
「うるせぇ」
「え、だって呼んだんでしょ…イタタタタ!!!リヴァイ!お腹締めないで!苦しい苦しい!!」
「黙らねぇてめぇが悪い」
「いや〜、すっかり仲良しだね〜、君達」
「ハンジさん!のんびり見ていないで助けて下さいっ!」


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