嫌疑

調査兵団員の壁外での変死。
前代未聞の事件は兵団内だけではなく、壁の中の民にも衝撃が走った。



「失礼しました」

聴取が行われている談話室に敬礼を見せてドアを閉めた。

はぁ、終わった。

事件が起こり、殺されたとされる団員の遺体を運び、昨日の壁外調査は終わった。
そして今日、調査兵団員1人1人が呼ばれ、聴取が行われている。
私の番がついさっき終わった。
どこで誰と居たか、それを証明出来る団員は居るか。
そんな感じの内容だ。

私達、調査兵団の中に、殺人を犯した者が居る。

その事実が、今兵団舎内の空気を不穏と緊張に変えている。


「終わったか」

聴取の部屋から自室に帰ろうと廊下を歩き始めると、角から声をかけられた。

「リヴァイ。待ってたの」
「あぁ」
「待機命令だよ」
「知るか」

壁に凭れた体制から立ち上がり、リヴァイは私に並んで歩き始めた。

「リヴァイは終わったの?」
「あぁ」
「…証明出来る人、居た?」
「お前とネスだ」
「そう、良かった。私もリヴァイとモブリットって答えたよ」
「俺達は大体、誰かと一緒にいる。問題は無いだろう」
「…そうだね」
「どうした」

リヴァイが私の変化に気が付いた。

「え?」
「元気が無いな。何か言われたのか」
「…ううん。そうじゃないんだ」
「じゃあ何だ」
「新兵の…頃を、思い出して。同期が殺された時も、こんな空気が兵団舎内に漂っていたなって」
「…そうか」

同期。それで私が誰を思い出しているのか、リヴァイは理解したのだろう。
静かな返事が、それを語っていた。

マーガレッタ、まただよ。
また、こんな悲しい事件が起こってしまったよ。
でも、今回は、前とは違う。
確実に、犯人は調査兵団の人間だ。
壁の外で、あんな器用な殺め方を出来るのは、人間だけ。
共に心臓を捧げ、共に巨人と戦ってきた、誰か、が…。

「アネモネ」
「ん?」
「暫くは俺と行動を共にしろ。どこに行くのも1人になるな」
「…いつもと一緒じゃん」
「常より慎重になれ。この古城に人殺しがいやがるんだ。ふざけている場合じゃあねぇぞ」
「うん…ゴメン、分かった」

空気が重い。
壁外調査帰りの、沢山の団員が犠牲になった時とはまた違う、重さ。
疑心暗鬼、それも含まれているのかもしれない。

「ん?」

今年から当てられた個人の自室の前に人が待っていた。

「モブリット。どうしたの?」
「アネモネ」

私が声をかけると、モブリットが伏せていた瞳を開き、私を見た。
その瞳は、何だか私に縋っている様に見える。
モブリットの瞳は、私を見て、横のリヴァイを確認して、また戻る。

「モブリット…?」
「アネモネ。話があるんだ。2人で」
「話?」
「おい、モブリットよ」
「リヴァイ、悪いんだけどアネモネと2人にしてくれ」
「断る」
「リヴァイ、事情も聞かずに…」
「何故アネモネと2人じゃなければならない」
「大切な話なんだ。理解してくれ」
「出来ねぇ話だな」
「頼むよ」
「あ〜、2人供ストップ」

こう見えてモブリットも頑固な部分がある。
リヴァイなんて頑固の塊だ、こと私に関しては何故か。

「リヴァイ、ドアの前で待ってて」
「…あ?」
「モブリットの話を2人で聞く、内容によってリヴァイに話せるかどうか判断する。これでどう?」

お互い譲歩して。2人に言って私は腕を組んだ。

「分かったよ、アネモネ」
「…チッ」
「リヴァイ、舌打ちしないで」

私から目を逸らしたリヴァイは私の部屋の、向かいの壁に凭れた。

「何かあったら声をかけてね、リヴァイ」
「何かあったらそのドアを蹴破る、問題無い」
「大有りっ。声をかけるの!良いわね?」

リヴァイを指差して念を押すと、ふいと顔を背けた。
拗ねているな、あれは。

「…で?話って」

揃って入室して、ドアから少し離れて、早速本題に入った。

「アネモネは、殺された団員が他の団員と揉めていたの、知ってる?」
「…そうだったの、知らなかった」
「その団員は、ハンジさんなんだ」
「えっ」

予想出来なかった人物に少し大きな声が出てしまい、慌てて口元を押さえた。
ドアの先に聞こえるような声出したら、リヴァイがそれこそドア蹴破って入ってきちゃう。

「どうしてハンジさんが…?」
「あの団員、巨人の捕獲に反対していて、捕獲に積極的なハンジさんを調査兵団から追い出そうとしてたんだ」
「追い出す…?!」

また極端な話しで驚く。

「何も追い出さなくても…」
「気に入らなかったんだよ、きっと。ハンジさん、昔から有能だったし、それをひけらかす様な人じゃないだろ。団長や分隊長からの信頼も厚い。だから、僻みなのか、衝突する団員が結構居るんだ」
「そうだったの…」

それは知らなかった。

「ハンジさん、そんな素振り全然見せないから…」
「そうなんだ。俺もハンジさんの下に就いて知ったから、驚いたよ」
「それで、殺された団員とハンジさんが揉めていて?」
「揉めてたから、ハンジが怪しまれるんじゃないかって思ってる」
「……まさか、」
「うん。でも実際にハンジさん怪しまれているんだ。彼女だけ聴取場所が違う」
「そうなの?」
「…うん」

ハンジさんだけ聴取場所が違うのは、明らかに不自然だ。

「それは、怪しまれているわね…」
「今分かっている部分だと、1番犯人の可能性があるのはハンジさんだって思うのが、自然なんだろうね」
「うぅ〜ん…その情報だと…そうなっちゃうね…」
「アネモネは?」
「え?私?」
「この事件、どう思っているの?」
「どう…って、言われても…」
「何か不自然な部分とか、気になるところとか無いの?」
「それは…ハンジさんが犯人じゃないって言えるような、ってこと?」

私の問いにモブリットはコクリと縦に頷いた。

「どう思っているとか少し違うんだけど…」
「うん」
「犯人はどうして、団員を花で彩ったのかな…とは思ってる」
「目立つ為…とか?」
「わざわざ目立たせなくても、壁外調査は必ず点呼があるわ。そのときに絶対に見つかる。なのに、目立たせた」
「目立たせたことに意味があるってことかい?」
「と言うより、彩ることに意味があったんじゃないかしら」
「彩る…遺体を?」
「うん…」
「どうして彩ったと、アネモネは思っているの?」
「それが分かればね〜。決定打になる情報が何も無いから…」
「だよね…」

2人の会話だけだった空間にノックの音が響いた。

「リヴァイかな…?」

待ちきれずに様子を伺いに来た…?

「あれ」
「どうしたの?」
「今…ノックしたよね?」
「そうだね」
「…リヴァイじゃない」

リヴァイはノック無しで平気で私の部屋にズカズカ入ってくる。
ドアまで行き、開けた。

「エルヴィン分隊長」

開けた先の姿に敬礼を見せる。

「アネモネ。取り込み中か」
「モブリットが来ておりますが、問題ありません」
「そうか…リヴァイが待っていたから、そうかと思ったんだが」
「おい、用が終わったなら何故俺を呼ばない」

エルヴィン分隊長の後ろから声だけが聞こえる、シュールな光景。

「丁度1段落したところだったのよ。分隊長、私にご用でしょうか」
「あぁ。俺の執務室まで来てくれ」
「分隊長の、ですか?」
「あぁ。リヴァイ、お前も来い」
「何かが決定したのでしょうか?」

そう訊ねると、分隊長は私の後ろを見た。

「エルヴィン分隊長、ハンジさんは…?」

私の後ろに立っていたモブリットが訊ねる。

「…知っていたのか」
「ハンジさんだけ、聴取の場所が違うと聞いています」
「…そうか」

分隊長の表情が無くなる、何かを考えてるんだ。

「憲兵団は捜査から手を引いた」
「え?」
「じゃあ…犯人が見つかったんでしょうか?」

モブリットが再び訊ねる。

「いや。今回の事件は壁外で起こった為、私達調査兵団で捜査を行うことになった」
「私達が…ですか?」

この類の扱いは専門外だ。

「その捜査の指揮をお前が行うのか、エルヴィン」

リヴァイがエルヴィンの横から部屋に入ってきた。

「そうだ」
「…分隊長。俺は…外されたんですね」
「モブリット…?」

振り返るとモブリットは複雑な表情を浮かべていた。

「外されたって…どういう…」
「アネモネ、俺はハンジさんに近い存在だ。だから捜査に参加すると、信頼度が低くなる」
「信頼度…」
「憲兵団が捜査を行わない以上、身内の犯人を俺達で探し出さなきゃいけない。そして市民や他の団に結果をしっかりと示さなければいけない。となると、出来るだけ第三者に近い身内で行わなければならないから、ハンジさんに近い人間は居ない方が、差し出した結果の信頼度が上がる」
「…だから、自分は外された、って…?」
「ですよね、エルヴィン分隊長」

モブリットが聞くと分隊長は静かに瞬きを1つ。

「…あぁ、そうだ」
「…分かりました。アネモネ、俺は自室で待機しているよ」
「モブリット、」
「話を聞いてくれてありがとう。この事件、必ず解決してくれ」

モブリットは私の目を見て言う。
その瞳は、何かを私に託そうとしていた。

「…最善は尽くすよ」


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