用事を済ませSurvive Barに戻ってみると、樱花ちゃんが電話をしていた。
誰と電話してんだ…?
通話が終わったようなので、声をかけた。
「樱花ちゃん」
「一番君、おかえりなさい」
「あぁ。電話してたのか」
「うん、弟から。今日、父さんがこっちに来るって話」
「親父さんって、異人町の外れに引っ越したって言う?」
「そ。弟に用事があったみたいなんだけど、ついでに私にも会いたいって。でも、薬局には居ないよって話してたの」
「じゃあこっちに来るのか」
「どうだろう…。弟との話次第じゃないかな」
「俺達も1回挨拶しておかねぇとな、お嬢さんにはお世話になってます。って」
「何それ」
マスターに酒を頼み、来たグラスに口をつけた。
「しっかし、樱花ちゃんの薬局は長い歴史だよな」
「うん。この異人町と長い時間を過ごしているね」
「歴史ある薬局の女店主、かっけぇじゃん」
「育てて貰った恩もあるし、父の代で無くすわけにはいかなかったしね」
「ん?何か引っ掛かる言い方だな」
「何が?」
「普通、『生まれが』とか『親が』とか言わねぇか?」
「あれ、一番君に言ってなかったけ?」
「ん?何をだ?」
「私、母さんとしか血が繋がってないの」
「はっ!?」
「父とは血は繋がってないの。弟は繋がってるんだけど。だから、弟は異父兄弟」
「そうだったのかよ…」
「母さん、お腹に私が居る時に異人町に来たの。で、以前から知人関係だった父方の祖父に世話になって、そして父と結婚したのよ」
「知らなかったぜ…」
「因みに、母さん、父さんの1周り以上年下なの」
「親父さんやるな!?」
「ね、私も知った時驚いちゃった」
「なぁ、お袋さんは今…?」
そう聞くと樱花ちゃんは少し悲しそうに目を伏せた。
「亡くなったわ」
「そうか…」
「でも母さん、酷いんだよ?最後まで私に本当の父親、教えてくれなかったの」
「どうしてだ?」
「分からない。その後父さんにも聞いてみたんだけど、『母さんが墓場まで持って行った話だから』ってまだ話してくれない」
「結構すんげぇ親なんだな…」
「父さんは私の本当の父親知ってるのかどうか…。あ、ねぇ、一番君」
「なんだ」
「一番君ってさ、本当の父親、知ってみたいって思ったことある?」
「あ〜…あるけど、今は良いかな」
「だよね、私もなんだ」
「樱花ちゃんも?」
「うん。学生時代とか友達にそのこと話すとさ、『本当の父親知りたくないの?』とか『探さないの?』とか聞かれてたんだけど、そもそもどうして知りたいと思うんだろう?って感じだった」
「あぁ。分かるぜ、その感じ」
「やっぱりそうだよね」
樱花ちゃんは手元にあったグラスを傾けた。
「家族ってさ、血の繋がりもそうだけど、何かを共有することで生まれる絆の方が大事なんじゃないのかなって思うの」
「ほぅ」
「両親も祖父母もね、私のこと大事に育ててくれたんだ。父と血が繋がってないって分かっても、私は何とも思わなかった。共有した経験は、嘘をつかないんだなって、それが信頼関係になっているんだなって思った」
「あぁ、そうだな。俺んとこも、親っさんとの過ごした毎日が、俺達の関係に嘘は無ぇって教えてくれてるぜ」
「フフ、一番君は本当に親っさんが好きね」
「当たりめぇよ!」
「はぁ〜!何かスッキリした。話聞いてくれてありがとうね。一番君と親しくなれて良かった」
「おぅ、随分と嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」
「本当のことだよ」
「じゃあ…そんな樱花ちゃんに、しっかり礼をして貰おうかな」
「あ、分かった。もう1杯飲みたいんだね」
「その通り」
「フフ。私の長年のつっかえを取ってくれたお礼に、奢らせて貰うわよ」
.