11話

人生でまさか、虎と戦う日が来るなんて思ってなかった。
一番君達と何かと倒した虎が、上階にあるVIPルームの豪勢な絨毯の上に伸びている。

「さて…と」

一番君が目線を、虎の檻を開けた支配人に向く。
私達が虎と戦っている間に僅かながら回復した支配人は、壁に凭れるように立っていた。

「おい、趙はどこだ?」
「…それは教えかねます」
「ほぅ…まぁだそんな口利けるのか?」

一番君が拳を鳴らし脅しをかける。
それを合図に全員バトル態勢に入った。

「汪さん」

私は支配人を呼んだ。

「風の噂で聞いたんですけど…このVIPルームには隠し部屋があるそうですね…。その隠し部屋は、拷問に使われてるとか、いないとか…」

そう訊ねると汪さんの顔色が変わった。

「どこでそれを…」
「風の噂と言ったじゃ無いですか。…本当だったようですけど」

さっきまでの余裕の無い支配人は、虚実が顔に出やすくなった。

「このどこか…ってことか。おい、もう吐いちまえよ」

周りの壁を見ながら足立さんが支配人に促す。
それでも汪さんはグッと黙った。

「ボスが変わっても、ボスへの忠誠心は変わらないってことね…。仕方ない」

この手は出来るだけ使いたくなかったけど…趙の命には代えられない。

「皆さん、少し下がってて下さい」
「?何する気よ、樱花ちゃん」
「お話が聞けるか交渉してみます。あ、このことは内緒でお願いしますね、仕事に関わっちゃいますから」

紗栄子さんの疑問に答え、皆を下がらせた。
距離が出来たのを確認し、私は医療バッグから小瓶を1つ、取り出す。
それを汪さんの足元に投げつけた。

「ぐ…ぐぅ…!?」

途端に痛みから悶え倒れる。

「おい。お前さん、何投げたんだ」
「红色の小瓶を投げました」

出血と同効果が出た汪さんの体力がどんどんと無くなっていく。
私は次に、黄色の小瓶と白色の小瓶を取り出した。

「趙の居場所を吐けばこの白色の小瓶を投げます。でももし、馬渕さんへの忠誠を貫いて言わなければ…この黄色の小瓶と一緒に、あの虎に投げます」

私は後ろで伸びている虎を指差した。

「黄色は洗脳の効果があるので敵と味方が逆転します。体力が回復した虎が汪さんを敵とみなしたら…どうなるでしょうね?」

にっこりと微笑んで言えば、汪さんの表情がみるみる青ざめて行く。

「話す…話すから…それだけは…」
「あら、そんなに震えないで下さい。お話して下さったら交渉は成立ですから」












「肉の壁の中で生きてる人間って…やっぱすげぇな」
「本当ね。可愛い顔してエグいことしてたわよ、あんた」
「まぁ、職業を生かした技っていったところです。あ、最初にも言いましたけど、このことは内密に…」
「んなこと言える訳ねぇだろ!漢方医のお前さんが薬使って脅してただなんてよ!」

すっかり引いてしまった3人に一応言い訳してみる。
分かってる、この辺りの感覚がズレているのは自覚している。
それに比べ…。

「樱花さん!素晴らしい脅迫でした!!いかがですか、その腕を是非コミジュルで…!」
「…スカウトするの止めて貰って良いですか」

目を輝かせ、ジュンギさんは私を勧誘してくる。
やっぱりこの辺り、感覚ズレてるよね、私達。

「で、この辺りだったっけ?あの男が言ってた場所」
「はい…このどこかにある筈です」

階段を1つ上がった所に、隠し部屋の入口があると汪さんは吐いた。
テーブルの側だと言っていたけど…。

「ねぇ、あの机だけ不自然じゃない?」

紗栄子さんがそう言って壁際のテーブルを指差した。
不自然な程壁にピッタリとくっ付いている。

「本当ですね。他のテーブルは皆、空間を広く使って置かれているのに…」

ジュンギさんはそう言って気になるテーブルに近い壁に目を凝らす。

「…皆さん、ありましたよ」

壁の一部分をジュンギさんが押した。
その部分はへこみ、横の壁が扉の様に開いた。



※※



残りの力を振り絞って、親指の拘束を解こうともがいたけど、無理だった。
身体中は痛いし、はぁ…。
足音が近づいてきて、扉が開く音と供に真っ暗な部屋に光が差した。
居たのはかつて俺の部下だった奴ら。

「ボスがお前の始末を決めたぜ」

1人がそう言うと、残りの奴らが俺の身体を掴む。
最後に入ってきた奴が持っていたのは、調理場で使っている解体用の大きな包丁。

「これなら骨まで1発で切れるなぁ…元総帥・・・さんよぉ」
「おい、首から上は綺麗にしろよ、あの女に見せしめにするんだからよ」

あぁ…俺の生首…樱花ちゃんに見せる気かぁ…。
嫌だなぁ…彼女にそんな姿…見せたくないなぁ…。

力の入らない俺の身体はあっという間に、首を差し出すように跪かされる。



俺の人生も…ここまでか。
最後にせめて…彼女の顔を思い出したいなぁ…。

そう思って出てきた顔は、最後に見た、不安から強張っている表情だった。

違うよ…君に、そんな顔して欲しくない…。
いつも笑ってて…欲しいんだ…。

次に出てきたのは、美味しそうに肉包子ロウパオズーを頬張る姿。
そう…そうだよ…君はいつも笑って…光の中で…生きてて…。



部下だった1人が俺の髪を掴んで頭を固定させた。
あぁ、いよいよかぁ…。
俺は目を閉じて、そっと名前を囁いた。


「…インフゥア…」


初恋が実らないって…本当だね…。















近くでパリン。とガラスの様な、瓶が割れる音が小さく2つ、聞こえた。
そして人が駆け込んで来るような音。
俺の身体を掴んでた腕が離れ、俺は踏ん張りがきかず倒れ込んだ。

なに…何が起こってる…?

辛うじて残ってた力を使って顔を起こすと、床に見慣れたスニーカーが立っていた。
オレンジのハイカットスニーカー。
履き心地が良いんだ。といつか俺に話してくれた、その靴。
その靴が動いた。
爪先が俺に向く。
不意に、身体が起こされた。

「趙…!」
「樱花…ちゃ…ん?」



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