12話

「この…バカ天佑!!!」

私はこれでもかと怒鳴った。
趙はぽかんとした様子で私を見る。
顔には沢山の傷が出来て、腫れていた。
その姿に胸が痛んだ。

「また…また自分を後回しにしてっ!こんなに怪我して…!」

医療バッグを探って白色の小瓶を取り出す。
私達の足元で割った。
趙と私の傷が治っていく。

「…まだ全快にならないね…」

私は完治したけど、趙の顔や胸元にはまだ傷や痣が残っていた。
もう1つ割ろうとバッグを探る。

「樱花ちゃん…もう、大丈夫だから…。それより…これぇ、取ってくれる…?」

そう言って趙は視線を自分の後ろを指した。

「あ、…直ぐ外す」

近くに何か無いか探すと、さっきまで趙を囲んでいた人のドスが落ちていた。
それを拾って拘束を外す。

「わわっ…!」

途端に趙はバランスを崩して倒れそうになる。
慌てて肩を掴んで支えた。

「こいつら…樱花ちゃんが…倒したの…?」
「うん」
「1人で…来たの?」
「途中までは一番君達と一緒だったよ。今…馬渕さんと戦ってる…」

汪さんの話では、馬渕さんには来客が来ていて、流氓の戦闘員の殆どがそっちに行っていると言った。
そちらに向かう数が多い方が良いと皆で結論を出して、ジュンギさんが見つけた扉の先には私1人で来た。

「…そう、馬渕と…イテテ」
「ほら、もう。まだ痛むじゃない」
「動けない程じゃぁないから…。あぁ、でも、樱花ちゃん…肩貸して貰って良い…?」
「歩けるの?」

趙の片腕を私の肩に回し、引いて起こした。
フラフラとした様子で立ち上がる。

「力入る?」
「何とかね…」

そのまま部屋から出ようとした時、廊下から人の声が聞こえた。
足を止め、扉の先に神経を向ける。

「…流氓の増援?」
「そのようだねぇ…」
「趙はここに居て」
「樱花ちゃん…俺も戦うよ…」
「そんな怪我で戦える訳ないでしょ」

趙を壁に凭れさせるように立たせ、私は部屋を出た。
廊下の先には物騒な武器を持った流氓の戦闘員が、私を見るなりガラの悪い言葉を浴びせてくる。
さて、もうひと踏ん張り、いけるか、私。
体力は回復したけど、調剤の余力が少ない。
拳法だけで全員を伸すことになるかな…。
腕を伸ばして軽くストレッチを行い、構えた。

「…ん?」

流氓の後ろに、大柄の人が見えた。
暗くて顔が良く見えないけど、何かあの人だけ雰囲気が違うような…。

「え?」

その人が流氓の人達を、殴り始めた。
ぎゃぁ!何じゃお前!ぐうわぁ!と声を上げて、流氓の戦闘員があっという間に床に倒れた。
大柄の人が私に近づいてくる。
いつでも殴りにかかれるよう、構えを解かずに警戒した。

「…あんた、趙さんの仲間か?」

グレーのスーツに黒生地の柄シャツ、リーゼントと左の眉に入った剃りこみが印象的な男性。
その男性が私に訊ねた。

「樱花ちゃん…」
「趙、動いちゃダメだよ」

答えを言おうと口を開いた時、趙が部屋から出てきてしまった。
まともに立ってられない身体を支える。
だけど趙は私の身体を、自分の背中に隠すように押してきて、前に出た。

「あんたが趙さんか」
「…そうだけどぉ…君、誰?」

これだけやられてるのに、趙の凄みはいつも以上に強い。

「…言えない」
「はぁ…?言えないって…どういうこと」
「…どこかの組の人ですか?」

スーツに見えたバッチから、私はそう訊ねた。

「…近江連合の者だ」
「近江…?」
「余計訳分かんない…。今近江が何してんのか…分かってんの」
「あぁ。だけど、これは俺の独断だ」
「独断ねぇ…。それで…、タダで助けてくれた…って訳じゃないよね」
「…春日一番を呼んで欲しい」
「一番君…?お知り合いか、何かですか?」

一番君はどこかの組に居たって、前にナンバさんが言っていた。
もしかしてその頃のお知り合い?
その男性は私の質問には答えず、黙ってしまった。

「それも言えないって訳…」
「趙。どちらにしろ私達も一番君と合流しないといけないし、取り敢えず行こう?」
「そうだねぇ…春日君には借りが出来たし…」
「一緒に来て下さい。上の階に一番君達が居ます」
「話すのは春日一番とだけだ…」
「え…と、じゃあ。一番君達が居る階の、1つ下で待って頂けますか?話は趙と私から取り次ぎます」



※※



少し離れた路地で、趙と一番君が話をしているのをぼんやりと眺めていると、隣に人の気配が来た。

「…樱花ちゃん」

紗栄子さんと足立さんと話していたナンバさんだった。

「弟さんには会ったんですか?」
「あぁ。元気にしてたよ」
「…ソンヒさんらしいですね。才能があるから殺さずにいた。なんて」
「俺ぁもう、とっくに駄目かと思ってたんだ」
「あら、それは見誤ってますよ、ナンバさん」
「そうなのか?」
「コミジュルは確かに非情ですが、それはあくまで最終手段です。他に手の打ちようがない場合だけですよ」
「…なぁ、樱花ちゃん」
「はい」
「俺を責めねぇのか」
「え?」
「俺は樱花ちゃんを…利用しようとしてたんだぜ」

ネオンに照らされたナンバさんの表情は苦しそうだった。

「…自分を責めてる人を、責める趣味はありませんよ。私」
「えっ…」
「ナンバさんは十分に反省して、それを受け入れてくれてる仲間が要るじゃないですか」

私は目線を紗栄子さん、足立さん、一番君に移す。
ナンバさんがここに居て、皆と居るっていうことは、そういうことだろう。

「…ヘヘ。しょうがねぇ連中だよ」
「嬉しそうですね」
「嬉しかねぇよ」
「照れ隠しですか?」
「そうよぉ。ナンちゃん、さっき嬉しくって泣いちゃってたんだから」
「上からモノ言いやがって」

私の会話に紗栄子さんと足立さんも加わってくる。

「へぇ〜、嬉し泣きですか〜。へ〜」
「樱花ちゃんまで揶揄うなよ」
「フフ、ごめんなさい」
「それで…これからあなた達はどうするの?」
「そうですね…」

横浜流氓はクーデター、コミジュルは証拠を燃やし、星龍会も混乱が起きている。
肉の壁はボロボロだ。

「取り敢えず、私は趙の治療をします。あんなナリじゃ何も出来ませんからね」
「そうね。安心した?樱花ちゃん」
「え?」
「お前さん、横浜流氓がクーデターだって聞いた時、取り乱してたからな」
「趙が無事で良かったわね」
「まぁ…そうですね」

私は一番君と話している趙を見た。

「幼馴染ですから…やっぱり心配でしたね」
「樱花ちゃん、あいつと幼馴染なの!?」

紗栄子さんが驚いた声を上げる。

「あれ?言ってませんでしたっけ?」
「初めて聞いた!じゃあ、樱花ちゃんって、やっぱり趙の女?」
「ち・が・い・ま・す」

やっぱりって何ですか、やっぱりって。

「趙が幼馴染って…お前さんも大変だな」
「いえ、そんなに大変な思いはしてないので…」
「銃向けられたりしてない?」
「足元打ってきて脅されたりしてねぇか?」
「…されたことないです」

世間のマフィアのイメージってそんな感じなの?

「私が見ている趙って、結構素の時が多いですから」
「へぇ。じゃあ、素のあいつって違うんだ。何か意外」
「あ、話終わったみたいです」

趙が私を見て手招きをしている。

「そうだ。紗栄子さん、これを」

私は最後の白色の小瓶を渡した。

「一番君が揃ったら、皆さんで使って下さい」
「ありがとう。助かるわ」
「それじゃあ、私達は行きますね」
「あぁ」
「気ぃ付けろよ」
「またね、樱花ちゃん」
「はい」

皆にお辞儀をして趙の元へ向かった。

「樱花ちゃん、お待たせ」
「ううん。取り敢えず私の家に行こう」

まだ少しふらついている趙の腕を、自分の肩に回した。

「じゃあね、春日君」
「あぁ」
「一番君」
「おぅ」

私は一番君を真っ直ぐに見つめた。

「…非常感谢本当にありがとう
「…え、何て言ったんだ?」
「樱花ちゃん…いじわる」
「フフ、またね。一番君」



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