16話

「と、いうことなんでぇ」
「暫くお世話になります」

趙の傷も癒えた頃、Survive Barというバーに足を運んだ。
ここは一番君達が拠点を置いている場所だと聞いている。

「そういうことなら…」
「そうだな。樱花ちゃんの身の安全は優先すべきだ」

一番君とナンバさんがそう言ってくれる。

「私は大賛成!女の子が増えるのは嬉しいわっ!」

紗栄子さんは喜んでくれている。

「以前のようにコミジュルで保護が出来れば良かったのですが…今は難しい状況です。この判断が適切かと」
「お前さんが強いのは知ってるが…敵は何をしでかすが分からんからな」
「皆さん…ありがとうございます」

良かった、快く受け入れて貰えた。

「でもよ、あの狭い部屋に趙と樱花ちゃん、2人も増えて大丈夫か?」
「それなんだけどね、一番君。紗栄子さんに提案があるの」
「私?」

私に名指しされた紗栄子さんは、自分を指差して不思議そうに私を見てくる。

「はい。良ければですが、私の家を宿代わりに使いませんか?」
「樱花ちゃんの家?行きたい行きたいっ」
「おい、夜に女2人で大丈夫か?」
「それならご安心下さい」

足立さんが当然の疑問を投げかける。
それにはジュンギさんが答えてくれた。

「今、樱花さんの家を既にソンヒが仮眠場所としてお借りしております。その間はコミジュルと、横浜流氓の戦闘員を交代で警護に当たらせています」
「ソンヒさん、帰ってこない日もあるんですけど、警護は毎日来て下さいます。昼間は皆さんと行動を共にして、夜は戦闘員の皆さんに護って貰ってます」
「残ったうちの子たちは信用出来るよ〜。中々腕のたつ、自慢の子たちだから」
「それなら安心ね。早速今日から、お邪魔しようかしら」
「えぇ。是非」
「俺ももう少し樱花ちゃんの家、居たかったなぁ」
「もう寝る場所が無いから、仕方無いよ」
「え〜。あるじゃん」
「?どこ?」
「樱花ちゃんの、ベッド」
「すみません皆さん、流して頂いて結構ですので」
「…趙ってこんなキャラだったのね」
「紗栄子さん…。そんな呆れかえった目で見ないであげて下さい…」
「取り敢えず、趙と樱花ちゃんも加わったことだし、色々と準備しようぜ。この先、いつどうなるか分からねぇだろ?金も道具も揃えといた方が良い」
「賛成」

足立さんの提案にナンバさんが同意する。
私も首を縦に振った。


―趙が仲間に加わりました―
―樱花が仲間に加わりました―



※※



「うわぁ!薬局の上ってこんな感じなんだ〜」
「玄関手前から、クローゼット部屋・客間・寝室になってます。紗栄子さんに使って頂くのは寝室です」
「え?樱花ちゃんの寝る所じゃないの?」
「私は居間に簡易ベッドを出して寝るので、どうぞ使って下さい」
「そうはいかないわ。お邪魔させて貰ってるんだから、私が簡易ベッドを使うわ」
「客人は精一杯もてなせ。チエン家の教えなんです」
「そう?じゃあ…お言葉に甘えちゃおうかしら」
「はい、そうして下さい。…それにしても荷物、多いですね」
「Survive Barだと置けなかった美容道具、家から持ってきちゃった」
「は、はぁ…」

紗栄子さんの荷物は大きなキャリーケースいっぱいに詰められていた。
洋服かと思っていたけど、なるほど美容道具か。

「これからSurvive Barに戻りますか?」
「ううん。今日は荷物の整理もあるし。このまま休みましょ」
「そうですね。お茶、用意します」
「ありがとう。早速寝室、借りるわね」
「ある物は自由に使って頂いて大丈夫です」
「分かったわ」

キャリーケースを寝室に運んで、紗栄子さんはドアを閉めた。
さて、私は茶葉を選ぶことにしようかな。
台所に移動した時、私のスマホが鳴った。

「ソンヒさん?」
『樱花。家には着いたか』
「はい。…コミジュルの復旧、時間がかかりそうですね」

いつもなら私の行動を監視する場合、コミジュルの視が見ているので、こんな質問は飛んでこない。
それだけ、打撃があったということだ。

『あぁ。今日はこっちにかかり切りだ』
「分かりました」
『戦闘員は送った、警護は問題無いだろう』
「私の心配より、ご自愛下さいね」
『分かっている。戻るのは明日の昼頃だ』
「その時間は私も紗栄子さんも不在になりますので、渡した合鍵、使って下さい」
『そうさせて貰う。そろそろ切るぞ』
「はい」

電話を切ると、いいタイミングで紗栄子さんが部屋から出てきた。

「あれ、電話中だった?」
「丁度終わった所です。ソンヒさん今日は完徹みたいです」
「大変そうね〜」
「お茶、今淹れますね。苦手な茶葉とかあります?」
「ううん、無いわ」

返事を聞いて、私はポットに茶葉を入れ、湯を注いだ。
良い色合いになった茶をカップに2つ注いで、紗栄子さんの前に出した。

「ありがと」
「いいえ。暫く同居人になるんですから、遠慮は要りませんよ」
「ウフフ。樱花ちゃんは典型的なお姉さんね」
「え?」
「弟さん居るんでしょ?」
「はい」
「私は双子の妹が居るんだけど、何だかんだで人に世話焼くの、癖みたいになっちゃってるのよね〜」
「あ〜。分かります」

”上の子”というのは弟や妹が生まれてからずっと置かれる立場なので、紗栄子さんが言う癖って感覚、分かる。

「しかし凄いわね〜。家持ち・店持ち・そして医者、でしょ?」
「家と店は父から継いだ物ですし、資格は必要な物でしたから、そんな凄いことじゃありませんよ」
「ねぇ、樱花ちゃん」
「はい」
「男…寄ってくる?」
「へ?」

紗栄子さんからの思わぬ質問に変な声が出た。

「私の勘だと、寄ってこないと思う」
「うっ…」

痛い所を突かれたが、正解である。

「その通りなんです…」

良い人だな。とか、そういう方が居たことはあったが、何故だか食事に数回行くだけで、それきりになってしまう。
理由が明確な人も居るけど、殆どは分からずじまいになっている。

「何ででしょうね?」
「そんなの分かり切ってるわよ。男って自分より収入とか、財産とかが多い女を選ばないってだけ」
「へぇ…。それはどうしてですか?」
「プライドよ!くっだらないプ・ラ・イ・ド!!」

紗栄子さんは拳を握りしめて強調した。
その姿に何かしらの圧を感じる
昔…何か…あったのかな…。

「プライド…ですか」
「そ!私もね〜キャバクラの雇われ店長やってるんだけど、それだって男寄ってこないもん」
「紗栄子さん、とても魅力的ですのに」

私は思ったままを口にした。
髪や爪の手入れが行き届いて、身なりだってしっかりしている。
背筋もピンと伸びて、同性の私だって素敵だな。と思うのに。

「〜っ!樱花ちゃん良い子!」
「わわっ」

紗栄子さんが私に抱き着いてきた。

「何て良い子なの〜!こんないい子、趙にはもったいないわ〜」
「…ん?」

何で、今、趙が出てくるの?

「趙は関係無いですよ」
「そうなの?」
「この前も言いましたけど、只の幼馴染です」
「ふ〜ん…。その割に口説かれてるじゃない」
「口説か…?!」

私が?!
いつ??!!

「そんなことされたことありませんっ!」
「あれ、違うの?樱花ちゃんのベッドで寝たい、とか言ってたやつ」
「あれは…冗談ですよ。昔からお嫁においで。とか、言ってくるんです」

あれを口説いていると解釈するのね、紗栄子さん。

「冗談…ねぇ…」
「そんな探るような目をしないで下さい。これ以上何も出ませんよ」
「もしかして、樱花ちゃんがお付き合い出来ないの、趙が原因だったりして」
「…どういう意味ですか?」

私から身体を離した紗栄子さんは、私の顔をじぃっと見た後。

「ううん。やっぱり良いわ」

ニッコリ微笑んで、あっさりと話が終わった。



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