17話

祐天飯店、調理場で口笛を吹きながら趙が中華鍋を振っている。


「樱花ちゃん、白い皿取って」
「白いお皿…」
「そこの大きいの」
「これね。はい」
「ありがとぉ」


「…何か、あれっすね。ああやって見ると、夫婦で経営してる店みたいっすね」

調理場の様子を口にすると、向かいに座る星野会長が俺を見た。

「春日よ、隣を見てみろ」
「隣…?」

横に目を向けると、鬼の様な表情のソンヒさんと目が合った。

「ぃ…!?」
「春日、命が惜しければ私の前でその言葉、二度と口にするな」
「な、何すかソンヒさん…」
「趙と嬢ちゃんの関係を気に入らねぇみてぇだ」
「気に入らない訳では無い。趙に樱花はやらないだけだ」
「同じじゃないっすか…」

樱花ちゃんが俺達に合流して数日、趙との様子を見ているが。
幼馴染にしてはやけに親しいし、恋人関係だって言われても納得する仲だ。
これで、趙は樱花ちゃんに結婚しよう。とか言ってるし。
樱花ちゃんは流して下さい。とか返してるし。
どう考えても趙、樱花ちゃんに気ぃ、あるよな。

「ソンヒさん前、コミジュルで趙のこと認めてじゃないすか」

最初にコミジュルを訪れた時、ソンヒさんは俺が趙に気に入られている。って理由で向けた銃を下ろしてくれたことがある。

「認めてはいる。が、それとこれとは話が別だ」
「春日よ、ソンヒに股間を蹴り上げられたくなけりゃぁ、この話がしねぇことだな」

俺は前に見た、近江連合の石尾田の姿を思い出した。
あんな思いはしたくねぇな…。

「ほい、お待たせぇ」
「おい、まだあんのか?こんなに食えねぇぞ」
「大丈夫ですって会長。食うのは若い俺らに任せてくれりゃ」
「私らはまだ全然いける。心配いらないよ」
「いただきます!」

ソンヒさんと揃って趙の料理を口に運ぶ。
彩りの良い料理は、火の通り方も味付けも絶品。

「さっきから食ってばっかで何も話せてじゃねぇか…。確かにうめぇけどよ」
「樱花。お前もこっちに来て食え」

ソンヒさんがまだ調理場に居る樱花ちゃんに声をかけた。

「中華鍋の手入れしたいので、先に進めて下さい」

洗い場で何かを流している樱花ちゃんが顔を俺達に向けて答えた。

「…そもそも、何で私をここに連れてきたんですか?」
「当たり前だろう。お前に何かあったらどうする」
「ソンヒさん…。警護をつけて下さってるじゃないですか」
「まぁまぁ、樱花ちゃん。今はぁ、こんな機会じゃないと、星野会長にもソンヒさんにも顔見せれないでしょ?」
「…私は親戚の子供か」



※※



中華鍋は日頃の手入れが大事。
まずは汚れを取って、沢山調理したから、少し焦げ付きが出来ている。
重曹を溶かした水でしっかり焦げを取って。
水気を取ったらコンロの上に置いて、油を薄く回す。
後は火にかけて、しっかり油を染み込ませ…。

「ねぇ、樱花ちゃん」

カウンターの向こう側から私を呼ぶ声が聞こえた。
呼んだのは趙だ。
顔を出して、何?と返事した。

「今ぁ、樱花ちゃんのおばあちゃん、どこに居るんだっけ?」
奶奶おばあちゃん?…あれ、どこだったかな…?」

おばあちゃん、急に引っ越ししたりするから。

「確か…蒼天堀で良かったと思うよ」
「あぁ〜。そうなんだ」
「急に何?」
「それがぁ、300万円位、必要だって話になって〜」
「え?」

どこから出てきたの、その300万円。

「嬢ちゃん、立話は何だ。こっちに来い」
「はい。もう終わります」










「なるほど…」

掻い摘んだ話を聞くに、これから政治的に乗り込んでくる、青木遼がバックに居るブリーチジャパン。
それに対抗する為に選挙の立候補者を立てる。
その供託金として、300万円必要だ、という内容だった。

「それで私の祖母の話が出てきたんですね」
「樱花ちゃんのばあちゃん、金持ちなのか」
「私の祖母は、株のトレーダーを個人で行ってて…儲かってるみたいです、かなり」
「やり手なばあちゃんだな」

私の祖母を知らない一番君の質問に答えると、目を丸くして驚いていた。
念の為、星野会長を見ると、あまり良い顔をしていなかった。

「…会長」
「俺ぁ、あの婆に金は借りたくねぇな」
「そう言わずに〜。樱花ちゃんが頼めば、貸してくれますよぉ」

隣に座っている趙が宥めるが、表情は変わらず。

「会長、樱花ちゃんのばあちゃんと仲悪いのか?」
「表現すれば…犬猿の仲だったの」
「あの婆ぁ、極道にあれこれ口出ししやがって…」
「祖母は祖父が大好きだったから…。異人三に関わるのを、良く思ってなかったの」
「倅が跡を継ぐって話になった時にゃぁ、星龍会にカチコミに来やがった」
「薙刀持って本部に乗り込んだらしいのよ」
「…どんなばあちゃんだよ」

極道に居た経験のある一番君ですら、驚く内容である。
私にとっては小さい頃から聞かされてた話だから、何と言うか、うん、感覚がズレてくるよね…。

「そもそも、この話に俺が関わってると分かりゃぁ、びた一文払いはせん。あの婆に金借りる話は無しだ。春日」

星野会長が立ち上がった一番君を見上げる。

「300万円……俺に用意しろと?」


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