管理人の息抜き短編:2

何て言うか、こんな日もあるんだろうけど。
今日は兎に角、朝からツイてなかった。


起きてまず、気に入ってるネイルが剥がれてることに気付き。
慶錦飯店に行ってみりゃ、長引きそうな客とのトラブルが報告され。
馬渕からの電話では、方向性の違いで口論になり。
ストレス溜まっちゃうよぉ…。


「はぁ…」

移動中の車の中でも思わず溜息が漏れた。
今日は早目に休もうかなぁ…。

「総帥」

運転してる部下が俺に声をかけてきた。

「…なぁに」
「お加減でも悪いですか?」
「…何で」
「いえ…珍しく溜息をつかれているので…」

そんなに俺ぇ、溜息ついてたの?
あ〜、これって、幸せが逃げちゃうんだっけ?

「お加減と言うより〜、機嫌が悪いねぇ」
「…そうですか」

それ以降、運転してる部下は黙ってしまった。
触らぬ神に何とやら。って、やつかなぁ。
何かこう、良い気晴らしが…。

「…あ、」
「どうされました、総帥」
「ねぇ、行先変えて」



※※



「趙?どうしたの、急に」

俺が指示した変更先は、樱花ちゃんの薬局。
ガラスの扉を開けば、白衣姿の樱花ちゃんが迎えてくれた。

「へへ〜」
「…いや、へへ。じゃ分からないから」

急な訪問にも、樱花ちゃんは向き合ってくれる。

「どこか具合悪い?」
「ん〜。ストレス溜まっちゃってさぁ。樱花ちゃんの顔、見たくなっちゃった〜」
「…は?」

俺としては会いに来る立派な理由なのに、樱花ちゃんは呆れかえった顔をしている。

「ちゃんとお土産持ってきたよ〜」

美味しいことで有名な胡麻団子の箱を見せると、樱花ちゃんの目が光る。
本当、美味しい食べ物に目が無いねぇ。

「…予約も入ってないし、客間使って休んでいきなよ」

樱花ちゃんはそう言って店の奥に向かった。
俺はお言葉に甘えて、客間にお邪魔する。
ソファに乗る前に、靴を脱いで。
横になると、一気に身体から力が抜ける。
はぁ〜、ここはリラックス出来て良いねぇ。

「お茶、持ってき…。だらけ過ぎ」

俺の姿を見て樱花ちゃんがまた呆れかえる。

「ここは安らぐね〜」
「休憩所じゃないんだから。はい、お茶どうぞ」
「ありがとぉ」

寝転んだソファから起き上がり、淹れてきてくれたお茶を一口。

「…初めて飲むお茶だね」
「趙、ストレス溜まってるって言うから、リラックス効果のある茶葉だよ」

斜めに座った樱花ちゃんも々お茶を啜る。

「今日はねぇ、桃饅頭も買ってきたんだ〜」
「え?ここ扱ってたっけ?」
「少し前から売り始めたんだよ」
「へぇ、知らなかった」

俺が箱を開けるのを、ワクワクと音が聞こえてきそうな様子で待っている。
その姿に小さく笑った。

「…何よ」
「点心は逃げないから」

箱を開いて中身を見せると、樱花ちゃんの目の輝きが増した。

「美味しそう!」
「先にどうぞ〜」

え?良いの?どれにしようかな。と樱花ちゃんは点心に夢中になる。
う〜ん。と悩んだ末に、胡麻餡の胡麻団子を1つ摘んだ。

「頂きます」
「召し上がれぇ」

胡麻団子を一口で頬張った。
結構大きいサイズなので、小さな頬一杯になる。

「ん〜〜♪」

口の中が一杯だから、顔をいっぱいを使って、趙!これ美味しい!と伝えてくれる。

「美味し?」

コクコクと首を縦に振って伝えてくれる。

俺も、桃饅頭を1つ取って齧った。

「…ん、美味しいねぇ」
「モグ…ね!」

幸せそうに目尻を下げて、樱花ちゃんは微笑む。


可愛いなぁ…。


「それで…?」
「ん〜?」

リラックス効果があるというお茶を飲みながら、俺に訊ねてくる。

「…ストレス溜まってるって言ってたじゃない」
「あ〜…。うん、そうだねぇ…」
「愚痴位なら聞くよ…聞ける範囲で、だけど」

俺の仕事、樱花ちゃんにでも話せない内容、結構多いからねぇ。
…聞かせたくないってのが、本音だけど。

「何だったっけなぁ…」
「さっきの今で忘れたの?」
「忘れるって言うより…」

俺はネイルが剥がれた自分の爪を見る。

「ど〜でも良くなっちゃった感じ、かなぁ…」


ネイルは帰ってから、また塗れば良い。
トラブルは手を打って、収めれば良い。
馬渕とはぶつかって、解決すれば良い。


冷静になれば分かることなのに、ストレスが溜まってる時って、考えが及ばないんだよねぇ。

「そう…。どうでも良くなったなら、いいんだけど…」
「心配してくれる?」
「まぁ、多少は…」

樱花ちゃんがちらりと俺を見る。

「じゃぁ、またストレス溜まったら来ようかなぁ〜」
「…ここはリラクゼーション施設か…」

俺にとっては、どこのリラクゼーション効果より効くんだよねぇ、きっと。


君と会って、君と話をして、君が幸せそうにしている姿を見ることが、ね。



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