19話

「ナンバさん…。これ、大丈夫なんですか…?」
「俺に聞くなよっ」

私とナンバさん、2人で両足を引っ張って、近江連合の組員を隠す為引き摺っている。



どうやらミツさんと電話をしていた一番君の感じからするに、私達は随分早い到着だったようで。
それでも一番君は早く会いたいからと、親っさんの場所を聞き出したようだ。
それに乗って趙はどこからか岡持ちを持ってきて、頻繫に出入りしている出前に紛れて行く。なんて話が出始めて。
一番君は1人で行く。なんて言い始めるし、そんなことは出来る訳無いし。
ジュンギさんにも、樱花さんはホテルで待たれていた方が良いのでは?と提案されたけど。
ここは蒼天堀、異人町とは勝手が違う。
護衛をつけれない状態なら、皆といた方が安全だという答えになった。
結局、出前に扮して近江連合の本部に上手く潜入、そこまでは上手く出来た。
…上手く出来たのも不思議な話だけど。

ミツさんから親っさんは『龍の間』という所に居るらしいと聞き出していたので、そこを探している最中。
遭遇してしまった近江連合の組員に、お前誰や?と聞かれた一番君は。
アドリブをきかせること無くそのまま名乗ってしまい、結局身バレして。

…倒して口を封じ、その身体を見えない所に隠している。



「騒がれる前にやっちまったんだ。問題無い」

他の組員を引っ張っていた足立さんは堂々と言うけど、その自信、どこから来るのだろう…。

「よし、これでいい」

反対側に組員を隠した一番君までそんなことを口にしている。
伸びている組員が見つかる前に、龍の間という場所に着かないと、余計面倒なことになる。

「龍の間は、あの階段を上がった所。って言ってましたね」
「あぁ…。こうなったら、行くっきゃないな」
「はい…」

隣に居るナンバさんは、結構腹が括れているようで、そんな返事をくれた。







階段の上から、革靴の足音が聞こえた。

そして異様な笑い声が、この空間に響く。

その笑い声は、例えるとするなら…まるで般若のような。







「『曲者ぉ 出合え出合えぃ』…ちゅうとこか?」

姿を現した笑い声の主に、私は驚いた。


左目には眼帯、素肌に蛇柄のジャケット、革のパンツに革の手袋まで。
ジャケットの下からは、鮮やかな彫が見えている。
明らかに真面そうじゃない。


その奥からは。もう1人、大柄な男性も出てきた。
坊主頭に厚手のモッズコート、ミリタリーパンツを履いている。
むすりとした表情で、私達を見ている。


「よぉ来たのぉ…。俺は退屈過ぎて、危うく死ぬとこやったんや。お陰で、やぁっと出番、ちゅう訳や」

出番…ってことは、私達を足止めに来た組員…?

「この貫禄…。幹部クラスかなぁ」

私の左隣に立っていた趙が呟く。
その言葉を聞いた眼帯の男性が、こちらを向く。
その瞳の重さは、正に蛇に睨まれた蛙だ。

「なかなか人を見る目、あるやないか…」
「お、おい一番…、なんかこいつら、普通と違うぞ?」

ナンバさんが困惑したような表情で一番君に声をかける。

「…分かってる」
「流石は近江連合の総本山って感じ?」
「ようやくその実感がありますね」

一番君、趙、そしてジュンギさん。
カタギではない人達の、表情が一気に引き締まってくる。
その緊張がこっちにまで伝わってくる。

「昔…東城会に『片目の狂犬』ってのが居たんだけどよ…。まさか…、アンタじゃねぇよな?」

東城会…。
関東最大の極道組織。
警視庁…もとい、青木遼が行った神室町3K作戦で壊滅状態になった筈。
それが本当だったら…。

「さぁ?どうなんかのぅ〜?」
「もしあんたがそうだとしたら、それが何で近江の本部に居るんだろうなぁ?」

一番君の言葉に、眼帯の男性はまた、笑う。
その独特な笑い方は、計り知れない人間だと良く分かった。

「聞きたいことがあるんやったら…、力ずくで聞いてみいやぁ…」

私達を煽るような口調で言ってくる。

「久しぶりの喧嘩や…。さっきから体が疼いてしゃぁないわ」

眼帯の男性が悦ぶように体を震わせる。
その姿にファイティングポーズを取った。


来る。
得体の知れない、強い人達。


「行くでぇ…。真島吾郎、解禁や!!」



※※



眼帯の男性が息を荒げながらも、口元の血を拭いながら愉しそうに笑う。

「…えぇやんえぇやん!思ぉたより楽しませてくれるやないか!」

私達も息を整えるので精一杯。

「こっちも…楽しませて貰ってるよ…!」

そう答える一番君の額にも汗が滲んでいた。

「化けモンだぞ、こいつら…!」
「全くです…!」

右隣のナンバさんの呟きに同意した。
本当に、この人達は一体…?

「ただのネズミとはちゃうな…。もうお互い、遠慮は要らんっちゅう訳や」
「今まで何か遠慮してくれてたっての…?」

これで遠慮してたと言うのなら、本気がどれ程のものになるか…考えたくもない。

「皆、聞いてたな?こっちもそろそろ、本気出して行くぞ…!」

さっき以上の本気、出るかしら。
そんな不安を思っていると。

「そこまでだ」

私達が背中を向けていた階段から、別の男性の声が止めた。

「ケンカの続きは、明日までとっといてくれねぇか、…イチ」

一番君が弾かれるように振り返った。
右頬に目立つ傷のある、それ以上にこの距離でも分かる貫禄漂う男性だった。

「…親っさん!」

一番君の言葉に私も再び階段の上に立つ男性を見る。
この人が…荒川真澄…。
右側から、もう1人、男性が歩いてきた。

「イチ、…こちらは東城会六代目、…堂島会長だ」
「東城会の…六代目?」


一番君が困惑した声を出す。
ここは近江連合の本部。
そこに東城会のトップが居るなんて。
それに、一番君の話が本当ならば、眼帯の男性も東城会…。
どうして…?
答えはきっと…この人達が持っている。


「なぁんや、やっぱり味方やったんか。…おおきになぁ、六代目。おかげでこのケンカ、不完全燃焼や」

眼帯の男性…真島さんが仰々しく、階段の上に居る堂島さんに言う。

「だから…本番は明日って言ったでしょう。真島のオジキ。フッ、…もう少し人の話を聞いて頂かないと」

真島さんを見ていた荒川さんの目が、私に向いた。

「それに…胡蝶蘭さんに、お孫さんに手を出したなんて知られたら…」

荒川さんの言葉に私は驚きで目を見開く。

「どうして…祖母の源氏名を…!?」

胡蝶蘭。
私の祖母が、ここ蒼天堀に居た時に使っていた名だ。
それをどうして…?

「何や、胡蝶蘭の婆さんの孫って、姉ちゃんだったんかいな」

後ろの真島さんまで、祖母を知っているようだ。

「胡蝶蘭さんから、説明を受けているのでは?」

今度は堂島さんが私に訊ねてくる。

「い、いえ…。祖母とはまだ連絡が取れていないものでして…」

東城会の皆さんが、祖母を知っている…?
私の返事を聞いた荒川さんが、グッと表情を締めた。

「…皆、入ってくれ。…『龍の間』に」

荒川さんが私達にそう言って階段の奥に消えていった。
私達も後を追って、階段を昇り、龍の間へ向かった。



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