「こりゃ、朝までのびてんな」
「身体には問題ありませんので、明日には元気になると思いますよ。足立さん」
「ホールからタクシーまでの苦労したのによ、ホテルの部屋までこのガタイ、連れて行くんだろ…。ったく、」
「まぁまぁ、そう言わずに、ナンバさん。きっと緊張していたんですよ、一番君」
近江連合本部のホールで大暴れし、同時解散阻止を阻止…変な言葉だけど。
それを出来た途端、一番君がバタリと倒れ、そのままグーグーと寝てしまった。
足立さんとナンバさんが苦労してタクシーまで乗せて。
私は念の為付き添い医師として、タクシーに同乗した。
もう1台のタクシーには、代わりに紗栄子さんに乗って貰った。
大柄な男性2人と、小柄なナンバさんが詰められてる後部座席へ振り返る。
「打ち上げは異人町に戻るまでお預けですね」
「あぁ?俺ぁホテル戻ったら、その後外で飲むぞ」
「賛成」
「…2人供…」
一番君を放って、飲むんだ…。
「サッちゃんと樱花ちゃんはどうすんだ?」
「私達も軽くは飲むと思いますけど…。紗栄子さん、昨日も結構飲んでたんだよな…」
「あいつの辞書に休肝日なんて言葉は無ぇよ」
「そいやお前さん、渡瀬の用事って何だったんだ?」
「あ〜…。それが、渡瀬さんじゃなくて、スーツを着た男性の方が私にご用だったんです。臨時の用心棒さん?でしたっけ」
「あぁ。あの強烈なパンチ放ってた奴か」
「はい…。男性の写真を見せられて、この人を知っているか?って…」
「知り合いだったんか?」
「いいえ…」
「どんな写真だったんだ?」
「ええと…。古い写真でした。日付を全部は読めなかったんですけど、88年のものでした」
「そりゃまた随分と前だな」
「…あ、右手が義手の男性でした」
「義手…?お前さんか親父さんが、手当した奴とかか?」
「あの写真1枚じゃ何とも…。用心棒さんも、知らないなら良いって言って、その話は終わったんです」
「何だそりゃ」
「…何か足立さん、刑事さんみたいです」
聴取されてる気分になってきた。
「おい、俺ぁ元刑事だ。心は今でも刑事だよ」
「しっかし、良く分かんねぇ話だな」
「全くですよ、ナンバさん。あ、ホテル着きます」
タクシーがホテルの玄関前に停車した。
お会計を済ませ、一番君を担ぐ2人を手伝う。
「重てぇな。ったく…年寄りにはキツイぜ…」
「車椅子でも借りてきます?」
確かこのホテル、置いてあった筈。
「良い良い。そんな物使ったら、目立つだろ。俺達ぁ先に部屋行くから、お前さん、部屋の鍵頼むわ」
赤スーツの、髪がもじゃもじゃの大柄男性が、車椅子乗っていたら、確かに目立つ。
「分かりました」
2人を見送って、受付カウンターに顔を出した。
フロントの方が私を見て、お帰りなさいませ。と丁寧に迎えてくれる。
流石、一番君が取った有名ホテル。
部屋番号を告げると、フロントの方が2部屋分の鍵を渡してくれた。
「あれ、イッチ、まだ起きないの?」
後続車に乗っていた紗栄子さんが私達の元にやって来た。
「気絶するように寝ちゃいましたから…」
「気、張ってたのね。今日は休ませておきましょ」
「はい。この後、足立さんとナンバさん、飲みに行かれるようですけど、紗栄子さんどうされます?」
「う〜ん…。近江の奴らって、まだ居るわよね」
「ホールに居たのは幹部クラスって言ってましたね」
「じゃあ、他の組員が街中うろついてる可能性、あるわね。外出ない方が良いんじゃないかしら」
「それには私も賛成です」
「ジュンギさん」
後続車に乗っていたジュンギさんも降りてきた。
「同時解散で近江の連中は気が立っています。外出は控えるのが得策かと」
「そうですね…」
一番君の時みたいに、私達の顔も知れ渡っている可能性あるし。
「何、足立さんとナンちゃん、イッチ置いて飲みに行こうとしてたの?」
「はい。帰りのタクシーでその話題になって…」
「薄情な奴らね〜」
紗栄子さんが呆れかえった顔を見せる。
多分、私がさっき2人に見せた表情は、こんな感じだったんだろう。
「それじゃ、今日は男女それぞれの部屋で、明日まで自由に過ごすってことで。私もヒールでケンカして足疲れちゃった」
「紗栄子さん、先に上がっててください。私、そこのコンビニで適当に買ってから戻ります」
「お願いして良い?私、ビールね」
「…はい」
紗栄子さんも飲む気満々じゃないですか。
「樱花さん、私も行きます」
「何か買うんですか?」
「春日さんを運んだ、お2人に」
「あぁ、なるほど」
気が利くな、ジュンギさん。
紗栄子さんに2部屋分の鍵を託して別れ、1階にあるコンビニに入る。
ジュンギさんと私、各々カゴを持って、お酒やおつまみを入れて行く。
「…あれ、」
「どうされました?」
「そういえば、趙はどうしました?」
「先程、タクシーを降りた際、電話を受けられていました。先に部屋に戻られたのかも。…帰りのタクシーでも無言でしたから」
「あぁ…」
まだご機嫌斜めなのか。
「すみません…ちゃんと話、しますので…」
「樱花さんが謝ることはで無いと思いますが…」
「さっきみたいな怒り方、偶にあるんです。あれ位子供じみているのは初めてですけど…」
大体の場合は、お互いの考えのズレが原因だったりする。
話し合えば、ちゃんと分かり合える…はず。
「ジュンギさんを巻き込む様なことになってしまって…」
「いいえ。私は自分から口を出したのですから、責任は私にもあります」
「ジュンギさんは真面目ですね」
「えぇ。ソンヒからそう、教わりました」
「フフ。ジュンギさんはソンヒさん、大好きですね」
「樱花さんは違うのですか?」
「いいえ。私も大好きですよ」
「ならば、1つ相談したいことが…」
「何でしょう?」
「ソンヒに土産を頼まれてます。何が良いか、分からなくて…」
「あぁ」
蒼天堀は名物が沢山あるから、確かに悩みの種だ。
「下手な物は選べません」
「ソンヒさん、その辺りのジャッジ、厳しいですものね。私も選びますよ」
「そうして頂けると助かります」
.