24話

結局、何も進まなかったじゃない。
余計モヤモヤしてしまった…気もする。



鍵を紗栄子さんに渡してしまったので、部屋のインターホンを鳴らした。
程なくして、ドアの先に人の気配を感じて、開いた。

「おかえり、樱花ちゃん。遅かったわね」
「ただいま戻りました。趙と…話をしてましたので」

出迎えてくれた紗栄子さんはバスローブ姿だった。
先にお風呂入ってたのかな。
紗栄子さんからボディーソープの良い香りがする。

「あいつと…?」

紗栄子さんは何かに気が付いたような表情になった。

「…泣いてたの?」

そう聞かれて、自分の失念に気が付いた。
あれだけ泣いたんだ、目が赤いのだろう。

「あ〜…、えと…」

良い言い訳が思い浮かばなく、言葉に詰まっていると、紗栄子さんの目がスッと細くなった。
そして部屋の中に戻り、簡易的なキッチンの戸棚を漁っている。

「どうされました?」

私も室内に入り声をかけた。

「…あぁ、あったわ」

紗栄子さんが振り返る。
その手にはアイスピックが握られていた。

「さ、紗栄子さん…?」
「ちょっとあっちの部屋に行ってくるわ。これであいつの股間をブッ刺して…」
「待って下さい紗栄子さん」

物凄く物騒なこと言い始めてる。

「女を泣かせるなんて最低な男に、釈明の余地なんて無いわ…」
「落ち着きましょう紗栄子さん!目から本気と殺気が伝わってきます!!」



※※



「なるほどね〜」

何とかアイスピックの刑を阻止して、お酒片手に先程の話を紗栄子さんに聞かせると、そんな返事が返ってきた。
お互いのベットに座り、紗栄子さんはバスローブから伸びる綺麗な足を組んだ。

「ふ〜ん…」
「疑問ばかりが増えて、はっきりとした答えが出なくて…。趙は最後にヒントを残したって言ってましたけど…」
「それすらも分からない。ってことね」
「はい…」

話の始まりは、どこだっただろう…。
…そうだ。

「紗栄子さん」
「ん〜?」
「紗栄子さんはどうして、趙が私を口説いているって思ったんですか?」
「え?」

趙が私に、不思議な質問をするようになったのは、確かこの辺りからだ。

「どうしてって…、あれはどう見ても口説いてるわよ」
「へ?」

どう見ても?

「そう思わないのは樱花ちゃん位じゃないかしら」
「そう…ですか?」
「えぇ。私が言われたら、この人私に気があるのかしら?って思うもの」
「う〜ん…。紗栄子さんの感覚を私の話に当てはめると、趙はずっと私を口説いてたってことになるんですけど…」
「そうじゃないの?」
「えぇ!?」

からりと返事をされて思わず大声を上げてしまった。

「…あ、もしかして、」
「?」

紗栄子さんが何かに気が付いた口ぶり。
そして手入れの行き届いた綺麗な指を顎に当て、何か考える素振りを見せた。

「はは〜ん、分かったわ」
「え?」
「あいつの考え。何となく分かっちゃった〜」

にんまりと紗栄子さんは笑う。
そして、あれはこういう意味で、そういうことね〜。と1人合点がいったような言葉を並べている。

「これは確かに、樱花ちゃんが答えを出さないとね〜」
「やっぱり…私なんですか?」

うわ、頼みの綱の紗栄子さんにまで言われちゃった。

「うぅ〜〜ん…」
「樱花ちゃんはどう思うの?」
「どう…?」
「あいつが自分を口説いてるってこと」
「…まず思うのは、どうしてだろうって…」
「まぁ、そうね」
「何が目的なんだろうって…」
「…雲行きが怪しいわね」
「ハッ!まさか…趙…」

私、このシチュエーションに近いの、昔昼ドラで見た!

「漢方薬局が目的…!?」
「どうしてそうなるの!?」
「昔ドラマで見たんです。主人公の女性に長年言い寄って来てた男性が、実はその女性の財産が目的だったって!」

それだ!!

「…多分違うわ」

紗栄子さんが呆れ顔で私に首を横に振って見せる。
あ、この呆れ顔、足立さんに良くしてるやつだ。

「…違うんですね」
「えぇ。その考えからは絶対!離れた方が良いわ」

絶対、が強調されて言われた。
違うのか…。

「聞き方を変えるわね。樱花ちゃんはどう感じた?」
「感じた…?」

会話の中で感じた感覚を思い出す。

「最初はクエスチョンマークがいっぱいでした」
「うんうん」
「その後は…胸に違和感?」
「違和感?」
「はい…。感じたことの無い…何て言ったら良いんでしょう…この辺りが…」

そう言って私は自分の胸を指す。

「こう…感じたことの無い感覚になって…あ!さっきはドクドクいってました」
「ドクドク?」
「バクバク…?胸がドンドンってなる感じです」
「それって…もしかしてなんだけど」
「はい?」
「ドキドキの間違いじゃない?」
「ドキドキ…?」

ドキドキって…少女漫画に良く出てくる表現の、ドキドキ?

「これ…ドキドキなんですか?」

分からずに聞くと、紗栄子さんが一瞬固まり、そして爆笑し始めた。

「え?紗栄子さん??」
「アハハ!ひ〜、面白い!!」
「えぇ…」

そんなに笑うことですか?

「は〜、笑った。恋を知らない子が実感を持つと、こうなるのね」
「…コイ?」

ドキドキとか、コイとか、この人生でほぼ使ったことの無いワードばかりだ。

「え…と、」
「戸惑うよね〜分かるわ〜」

紗栄子さんがベットから乗り出して、私の頭を撫でてくる。

「樱花ちゃん可愛いわ〜。良くこんなに真っすぐ育ったものだわ。趙の賜物ね」
「え、これ趙のせいなんですか?」
「私、前言わなかった?『樱花ちゃんがお付き合い出来ないの、趙が原因だったりして』って」
「あ〜…。確かに…」
「あ〜!でも、ここから先は私から言えないかなぁ〜…」
「ここまで言っておいてですか!?」
「ちょっと手助けし過ぎちゃったかな〜」
「…紗栄子さん、楽しそうですね」

こっちは訳が分からないというのに。
紗栄子さんはニコニコと上機嫌だ。

「異人町で、こんな純愛話が聞けるなんてねぇ〜」
「は、はぁ…」

何か、紗栄子さんまで趙みたいになってきてる。


これ、本当に私1人で答えを出さないといけないの…?



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