「一番君」
「樱花ちゃん。1杯やってるの」
「先に頂いてます」
Survive Barのカウンターでのひと時。
マスターが用意してくれた洋酒のグラスを1人傾けていると、一番君が声をかけてくれた。
「いい所だね、寛げちゃう」
「だろ!居心地良くて長居しちまう」
「一番君は上に住んでいるじゃない」
「そうだったな」
ハハッ。と太陽みたいな元気な笑顔を見せてくれる。
「じゃあ俺も1杯飲むか。隣良いか?」
「どうぞ」
ニコリと微笑み返せばマスターにグラスを頼みながら一番君が腰を下ろした。
「そいや店の方は大丈夫?」
「うん。私がお店空ける時は、弟の知り合いの漢方医が来てくれるの」
「ほぉ」
「弟は調剤も扱っているから、こっちは専ら証をみるのが専門になるんだけどね」
「前から気になってたんだけどよ」
「ん?」
「その調剤っては漢方じゃねぇのか?」
「調剤は西洋の医学、簡単に言うと薬物治療を主に行うことを指すことが多いかな。悪い所だけ、お薬で治療するって言えば解り易いかしら。東洋の医学は生薬を使って、人が本来持っている自然治癒力を高めて体質改善を行うことが主になるわね」
「へぇ〜。そう説明されると全然違うな」
「漢方医が直接カウンセリングを行って調合するから時間もかかるし、扱う種類が多いから正直儲かる仕事じゃないのよね。だけど、この異人町に祖父の代から続いている仕事だから続けてる。私は西洋医学より性に合っているしね」
「何か樱花ちゃんらしいわ」
「フフ、ありがとう。そう行って貰えると漢方医冥利に尽きるわ」
グラスを傾け洋酒を1口。
「…この異人町って昔から、訳あって健康保険に入ってなかったり、病院に行けない人が多いのよ。祖父がそんな人達の為にって、持っていた生薬の知識で漢方薬を調合して渡してたんだって」
「それが樱花ちゃんとこの漢方薬局の始まりか」
「うん。その後父が継いで、私と弟が継いで。だけど、弟はもっと医療の幅を広げた方が良いと思って、調剤も扱う医院を別で開いたんだ」
「ってことは弟君は医者?」
「そう。私も一応医師免許、持ってるよ」
「そうなのか!?すげぇな」
「医学部卒業して2年研修医やれば持てるよ。一番君、資格取りたいって言ってたよね」
「40過ぎで医者は無理じゃね?」
「取る頃には50歳位かしら」
「それ、病院に世話になり始める年じゃねぇか」
「それは言い過ぎよ」
一番君がグラスを傾けた。
私も洋酒を口にする。
「そーゆーとこは、趙と同じ環境だったんだな」
「やる気には雲泥の差があったけどね。私は結構前から家を継ぐって決めて進路考えてたから」
「へぇ」
「ほら、うちって置かれてる境遇があるし」
「あぁ…なるほど」
「そっちも後を継がないといけなかったしね。私は幼い頃から星野会長ともソンヒさんとも顔見知りだったから適材だったんだよ。もしかしたら父はそれを踏まえた上で、私が小さい頃から異人三と会わせてたのかもしれない」
「親父さんは今一緒に暮らしてねぇのか?」
「うん。私が家業を継いだら異人町の外れに引っ越したよ。隠居生活だって言ってね。…苦労が多かったから、ゆっくりして欲しい」
「そうだな…こんなにしっかりした娘さん居るんだ、親父さんも安心して隠居生活出来るってもんだな」
「それ、褒めてる?」
「あぁ。俺からの最上級の褒め言葉だ」
「ふふ、そっか。じゃ、素直に受け止めておくね」
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