いやぁ…見事に予想通りの動きをしてくれるね、久米 颯太。
一番ホールディングスのビルが見えるベイエリア、今日はそこで久米が演説を行った。
高部さんが贈ってくれた選挙カーで駆けつけてみれば、対抗馬となった一番君が出馬したことを否定するような言葉を放っている。
演説を聞いている民衆は好印象な反応を示していた。
…まぁ、何割かはサクラなんだろうけど。
「さて、と。…一番君」
私は選挙カーの側に立っている一番君を呼んだ。
「あれ、どう思う?」
「どうって…言ってることは間違っちゃいねぇけどよ。俺も立候補する権利、あるんだよな」
「うん、そうよ。一番君は何の権利も冒してはいないわ。あれは法律の話じゃなくて、常識の話。だけど、常識って皆違うわよね?」
「まぁ…確かに。俺と樱花ちゃんじゃあ、常識ってやつ、違ぇしな」
「うむ、一番君は理解が早いわね。そこでなんだけど…」
私は一番君の側に行き、先日会長と話した内容を耳打ちした。
「…へへ。なるほど」
「ガツンと言ってきて」
「おぅ。任せろっ!」
※※
『前科あり、元極道と言う異例の春日候補はさっそくSNSを中心に話題となっております…』
「今回の演説は…イッチの勝ちって言っていいのかしら?」
夜になり、ニュースでは選挙の話題が報道された。
リビングでグラス片手に紗栄子が呟く。
…さっき、Survive Barでも結構呑んできたのに、お風呂入って呑み直してるし。
「取り敢えずは、と言ったところですね」
私は自分のスマホでSNSを覗きながら紗栄子さんに答えた。
SNSでの話題性は高いが、久米の主張に賛同する者、時代が変わったと言っている者、主張はそれぞれだ。
「私達の目的はあくまで、久米に近づいて青木遼と接触を図ることです。それに到達するには、もう少し一番君の印象を良くしないと…」
「…へぇ。樱花ちゃんって案外策士なのね」
「え?」
「前に聞いたわよ。コミジュルのシマを増やすのに一役買った、って」
「そんなことありません。あれは口添えした程度です」
「それを恋愛面で生かせればね〜」
「ぐっ…」
またその話ですか。
「それとこれとでは話が違います」
「応用力が無いのかしら?」
「応用って…」
未経験の類に、応用もなにも無いじゃないですか。
「戻ったぞ」
玄関が開く音が聞こえ、ソンヒさんがリビングに入ってきた。
「お帰りなさい、ソンヒさん」
「あぁ」
「今日は早いわね」
「いや、着替えに帰っただけだ。樱花、風呂を借りるぞ」
「はい」
私達と手短に話して、ソンヒさんはお風呂場に向かった。
「忙しそうね…」
「被害が大きかったですからね…復旧にも時間がかかりますよ」
私はコミジュルのことを思い、ふと引っ掛かった。
「どうしたの?樱花ちゃん。そんな難しい顔をして」
「いえ…。ちょっと引っ掛かったんですけど…」
「何が?」
「青木遼は…一番君の立候補後、大きな妨害をしてきてないですよね?」
「全くって訳じゃないけど…。まぁ、直接的なことはしてきてないわね」
「う〜ん…。引っ掛かるな…」
肉の壁を崩す為、近江連合を異人町に送った男。
あの時は馬渕さんを利用したから、コミジュルの眼を掻い潜れた。
今回はコミジュルの眼は以前程、強固なものでは無い。
なのに、偽札事業を崩壊させる程の周到さが見られない。
私達が先手を打てていると解釈していいのか。
それとも…。
「何だか…嫌な予感がします…」
「予感?」
「はい、まるで…」
嵐の前の静けさ、のような。
※※
「よし、まだ久米は俺らに気が付いてねぇ」
今日も懲りずに、近江連合は私達の行動を阻もうと立ち塞がる。
チームプレーで蹴散らして、一番君が久米に近づいた。
「よお」
「!!??」
民衆に握手を求めた久米を、一番君が上手く捕まえる。
「春日だ!春日候補が来ているぞ!!カメラ回せ!論戦だ!」
「昨日の論戦の続きですか!?春日候補!?」
近くに居たマスコミも早速食い付いた。
「いや、昨日は久米さんの揚げ足を取ってすまねぇと思ってな。今日は和解しに来たんだ」
「わ、和解の必要など…!」
一番君は握手した手を離そうとする久米の肩を抱き、マスコミのカメラに背中を向けるよう動いた。
良いよ、一番君。
そのまま久米の選挙カーに連れ込めば、青木遼の居場所を聞くことが出来る…!
「春日さん!!」
電話をしていたと思っていたジュンギさんが慌てて一番君に近付く。
耳打ちしたかと思えば、一番君は久米の手を離して走り出した。
「何かあったのかしら…?」
「私達も追いましょう」
紗栄子さんに答えて、走る一番君の後を追った。
「一番君、何かあったの?」
「星龍会でトラブルだ…急ぎらしい!」
「え…!?」
星龍会!?
「ど…どういうこと…!?」
「星野会長が狙われていると、コミジュルに情報が入りました…。ソンヒも異変があるようだと言っています」
私の後ろを走っていたジュンギさんが、そう教えてくれた。
そんな…星野会長が…!?
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