奥の壁に、1人凭れている人を見つける。
「高部のカシラ…!」
「春日…」
一番君が駆け寄って、膝を折って高部さんに視線を合わせる。
「撃たれたのか!?」
「近江連合だ…。銃を持ったのがひとり、他に約10人。親父んとこに向かった…!お、親父が…!!」
高部さんのスーツは血に染まった箇所が見て取れた。
私も駆け寄って、医療バッグを開いた。
「会長の部屋?」
「一番君、会長の部屋は上よ」
「頼む、急いでくれ…!」
「高部さん、動かないで下さい…」
「樱花ちゃん。高部のカシラを頼む」
「うん…。会長をお願い…!」
「分かった」
会長の部屋に向かっていく皆の背中を横目に、高部さんの傷の程度を診た。
まずは出血の多い足の止血にかかる。
「チエンさんも…親父の所へ…!」
「傷を診るのが先です」
「俺のことは良い…」
「これだけ撃たれている人が何を言っているんですかっ」
足の圧迫止血を強くすると、痛みから高部さんが呻いた。
「応急処置だけさせて下さい。それが終われば、私も行きます」
星野会長のことも心配…だけど。
医師として、目の前の怪我人を放ってはおけない。
※※
高部さんの応急処置が終わり、会長の部屋まで走った。
大丈夫、一番君達が向かったから…きっと…間に合って…。
会長の部屋の扉が大きく開かれていた。
そこに皆の背中が見える。
私の足音に気が付いて、趙が振り返った。
「趙、会長は…」
聞きながら、私は室内に会長の姿を探した。
会長の姿は直ぐに見えた。
いつも座っている会長室の椅子に。
胸から血を流し、目を開いている会長の姿…。
「…インフゥア、」
趙が私の肩に触れようと手を伸ばしてくる。
私はそれを押しのけ、医療バッグをその場に落とし、会長の元に駆け寄った。
「…会長」
首に指を当てたけど、脈はふれなかった。
私は会長の開かれた瞼をそっと下ろし、力の抜けた手を会長の胸元に合わせた。
間に、合わなかった…。
強い絶望感が私を襲い、その場に膝をついた。
「…俺が憎いか」
聞き覚えの無い声が聞こえ、膝をついたまま顔を上げる。
一番君達を対峙するように立っていた男が、私に声をかけていた。
「…あなたは…沢城…?」
この男は確か、東城会の若頭…。
「憎い…?」
「そうだ、憎いか?」
挑発的な態度で更に聞いてくる。
「あなたが…星野会長を…?」
「…そうだとしたら、お前は俺を殺すのか?」
…何を、言っているの…?
「お前にとっても、このジイさんは支えだっただろ?」
「どうして…星野会長を…?」
「どうなんだ?」
沢城の口調は私から冷静さを奪っていく。
星野会長を殺し、星龍会を襲った張本人。
この人が…星野会長を…!
そう考えると、沸々を怒りが湧いてくる。
今まで味わったことの無い、震えるような、怒り。
「樱花ちゃんダメだ!耳を貸すな!」
一番君の声は聞こえてくるのに、言葉を上手く理解出来ない。
この人は。
私の大事な人を。
奪った。
だから。
その命を…。
「お前も
奪ってやる。
その衝動で私は勢い良く立ち上がった。
その時。
会長の手が私に触れた。
有り得ない出来事に、沸々と湧き上がっていた怒りがスッと収まった。
見てみると、それは偶然の出来事で。
私が勢い良く立ち上がった時に、椅子にぶつかって。
肘当てに置いていた私の手に、会長の手が当たったのだ。
でも、今の私には。
会長に衝動を止められている様に感じた。
『嬢ちゃん。それは止めときな』
『嬢ちゃんは
『その手は、そうやって使うもんじゃぁねぇだろ』
って…。
私は動いてしまった会長の手を、もう一度胸の上で合わせた。
ごめんなさい、会長。
一瞬でも、私は愚かな気持ちになりました。
まだ暖かい会長の両手をギュッと握り、そして沢城を見た。
「…いいえ」
「あ?」
「私はそちら側の人間じゃない。カタギの漢方医よ」
私は、漢方薬局の店主。
この異人町に流れ着いてきた、グレーゾーンの人間の命を診る者。
決して…奪う者になってはいけない。
「だから、貴方には起こした罪は償って貰います。…それが、会長への、私の弔いです」
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