32話

一番君の様子が、おかしい。



あの後、Survive Barまで戻った私と趙は、店の前で紗栄子さん達と合流した。
一番君の様子を聞いていると、どこからともなく近江連合の組員が現れて。
あっという間に取り囲まれた。
タイミング良く一番君がSurvive Bar出てきて、あっという間に蹴散らした。
その後、一番君は久米 颯太に会いに行くと言うので、皆で同行することに。

久米 颯太の選挙事務所はもぬけの殻で。
そこにまた、近江の奴らが立ち塞がった。
それも、蹴散らし、一番君は組員を1人掴まえ、久米居場所を聞き出した。

聞き出した後も、一番君はその組員を殴り続けた。
まるで自分の不甲斐なさを吐き出すかのように。
見ていた皆も戸惑い始める。

「一番君…」

平静さを失ってる。
無理もないけれど、一番君にはそんな道を歩いて欲しくない。

「一番君、やめて!」
「うるせえ!!」

止める私を、一番君は怒気に満ちた目で睨んできた。
その鋭さに、言葉を失う。

「俺はな…、若と…、荒川真斗と話しなきゃならねぇんだ」

一番君がゆらりと掴みかかっている組員に向き直った。

「…あの人は何にもかわっちゃいねぇんだよ!!」

そしてその拳をまた振り上げる。
やめて。
それ以上、君の手を、自分で傷つけないで…!

「やめろ!!」

足立さんの制止する声も聞こえず、一番君が拳を振り下ろした。

「…っ!」


その拳が、組員を殴ることは無かった。
寸での所で、止めに入った。
私達以外の、別の人。

その手は、そのまま一番君を投げ飛ばす。

「誰だ…!?」

突然の出来事に一番君が更に怒りを込めた声を上げる。
私は、一番君を投げ飛ばした人物に目を見張った。



※※



「…来たな、春日一番」


一番君を投げ飛ばした人物は、私達をコミジュルへ呼び出した。
建物内に入ると、その人は私達を待っていた。


用心棒さん。
蒼天堀の時と違い、今は赤シャツに白いスーツに身を包んでいる。


私は彼の名前を知らない。
東城会の人達は、どうやら知り合いのようだけど。
一体、彼は誰なの…?


「あんたは俺を知っている。でもこっちは、ほとんどあんたを知らねぇ。…えらく不公平な気がするんだけど?」

一番君の投げかけは尤もだ。

彼は私達を『青木遼の次の一手を教える為』に、ここに呼んだ。
コミジュルが絡んでいるということは、信用出来る情報だろう。

だけど、彼は?
恐らく、青木遼の次の一手の情報は、彼から仕入れるもの。
彼自身を何も知らない私達から見れば、用心棒さんの情報の信憑性をどうしても疑ってしまう。

さっき、一番君を止めた時、彼はその話を伝えに私達に接触してきたと言った。
でも、一番君の様子を見てそれを止めた。
「そんなに頭に血ぃ昇っているようじゃ、理解出来ねぇ話だ」と。
そう言って、夜になったらコミジュルに来い。と昼間は去った。

時間を置いたのは、正しい判断だと私も思う。
昼間の一番君は、私達の声すら届かない位、怒気に満ちていた。
用心棒さんが何を言おうと、全てを理解は出来なかっただろう。
それだけ、聞き逃せない・・・・・・・話、なのだろう。


「じゃあ聞く。…俺が誰だか知るのと、青木遼が次に何をするのか。やつの次の一手がなにか?って情報、どっちを知りたいんだ?」
「…そりゃあ、ここに来た目的ってのは…ひとつだよ」
「分かりゃいい。だが、俺からも条件がある」
「なんだと!?」
「お前と、お前の仲間たちが、その情報を渡すに値する相手かどうか、確かめさせてもらいてぇ…」

確かめる…?
言葉の意味を探っていると、用心棒さんはスーツの上を勢い良く脱ぎ放った。
雰囲気が変わる。
それは言うなれば、獣が衣を剥いだような変化。

「あいにく俺ぁ、拳で人を見るタイプなんでな」
「そういうの…いつもは嫌いじゃねぇんだけどよ、やめとかねぇか?情報だけ…教えてもらえねぇか?」
「なぜだ」
「ここんとこ…俺の周りで大事な人間が立て続けに死んでよ…どえらく気が立ってんだ。今の俺は、手加減する自信がねぇ。アンタを…殺りかねねぇよ…」

一番君は苛ついた様子で言う。

…ダメだ、これじゃあ。
冷静に、人の言葉なんて聞いてくれない…。

「ふん…。そりゃあ、ちょうどいいな」
「んだと…。…ふざけやがって!!」

一番君もスーツを脱ぎ放ち、背中の龍魚が姿を現した。

「吐いた唾、飲むんじゃねぇぞ…」

啖呵を聞いた用心棒さんは、また鼻で笑う。
完全に挑発されている。

「…お前の欲しがっている宝はこの奥にある。宝の番人は俺だ。手にしたきゃ…その番人を倒して前に進め」

言葉で分からない奴は、拳で分からせる。
そういうことね。
一番君がこんな状態じゃ、私や他の皆が間に入っても、彼の答えは変わらないだろう。
ならば…。


「やってやるよ!!」
「死ぬ気で来い!!」

私達も拳で、彼に聞くまでね。



※※



「これで…良しと。もう動いで良いですよ、ナンバさん」
「あぁ。悪ぃな、樱花ちゃん」

傷の出当てが終わったナンバさんは腕をぐるぐると回し始めた。

「流石樱花ちゃんだな。痛みがどっかに吹っ飛んじまった」
「だからと言って、無理は禁物ですよ」
「分かってるよ」

ナンバさんの手当てが最後だ。
医療バッグに道具を戻していると、隣なら呻き声が小さく聞こえた。

「…一番君、魘されてる?」
「全くもう…いつまで伸びてるのよ」

膝枕をしている紗栄子さんが、呆れたように一番君の顔を覗き込む。
それに苦笑いを浮かべ、私は少し離れた場所にいる彼を見た。
彼もまた、私を見ていた。
立ち上がって、彼、用心棒さんの側に向かう。

「…あの、」

私は用心棒さんを見上げた。
改めて見ても、龍のように大きな人。
さっきスーツを脱ぎ放った時に、背中に龍が居たのを見た。
その背中の龍、そのものの雰囲気だ。

「何だ」

変わらず愛想の無い声にちょっと怯んでしまう。

「あ〜…え、と。良かったら…怪我、治療しますよ…?」
「必要無い」
「……」

う〜ん、会話が続かない…。

「…お前は」
「はい?」
「さっき、何故止めなかった」
「何を…ですか?」
「喧嘩だ。止めようと思えば、止められたはずだ」
「止めて…欲しかったんですか?」

あ、いけない。
質問に質問で返すのは、失礼なのに。
思わず聞き返しちゃった。

「気が付いてたのか」
「えっ?」
「ああでもしなきゃ、あいつが話、聞く気にならねぇって」

そう言って用心棒さんは、視線で伸びている一番君を指す。

「…何となく、ですけど…」

私達の制止も耳に入らない状態じゃ、何を言っても冷静さなんて戻らない。
だから用心棒さんは、一番君に喧嘩を仕掛けたのかな。
私達の度量も、図りつつ。

「それだけ…危険な情報だってこと、ですか?」

そう訊ねると、用心棒さんはまた、視線を私に戻す。

「…随分と頭が回るな」
「え…?」
「肉の壁で守られていたせいで、異人町内の情報は手に入りづらかった」
「は、はぁ…」
「それが崩壊し、手にすることが出来た」
「何が…ですか?」
「お前の情報だ」

何の話か良く分かっていなかった私は、その一言で理解した。
蒼天堀での話しの続きをしているんだ。
私の…情報…?

「あの…」
「何だ」
「あなたは、私を探していたんですか…?」

今の言葉を解釈すると、用心棒さんは私の情報が欲しかった。
でも、それは肉の壁があった為、出来なかった。
入手した情報を元に、渡部さんの伝手を使い、私に接触してきた。

「蒼天堀で私に見せた写真の男性…私に何か関係があるんですか?」

となると、用心棒さんと私の接点は、蒼天堀で見せたあの人物になる。
会ったことも無い、記憶に無い、あの人物。
用心棒さんの知人か何か…?

「いつまで話してんの〜?」

後ろから声が聞こえたかと思えば、後ろから趙が姿を現した。

「趙、どうしたの?」
「樱花ちゃん、ずっと独り占めされてたからぁ」
「この人と話しをしてて…」
「いや。話は終わった」
「え?」

さっきの質問の返答、私貰ってませんけど?

「あの、用心棒さん…」
「そうなんだ〜。じゃあ、樱花ちゃん返してもらうねぇ」
「え??」

趙は私を、皆の所にエスコートするように背中を押してくる。

「待って、趙…」
「あ、そうそう」

趙は何かを思い出したかのように振り返った。

「あんまりぃ、この子にちょっかい、かけないでね」

不自然な程にニコリと微笑む趙は、逆に怪しい。

「趙…?」
「テレテテッテッテッテー…」

この空間に余りにもそぐわない、まるで寝言の様な声が聞こえた。
声の方向を向いて見ると、紗栄子さんの膝枕で伸びていた一番君が片腕の拳を上に掲げている。

「どんな夢見てるのよ…」

あの効果音は確か、昔から流行っているRPGゲームのもの。
そういえば一番君、あのゲーム好きだって言ってたっけ。
思わず装備の鎧を見に纏った一番君を想像してしまった。
似合っている様な、似合っていない様な…。

昔、弟がプレイしていたゲームを隣で見ていたことがある。
確か、主人公が勇者という職業に設定されていた。

「勇者…か、」

一番君にピッタリだな。
どんな凶悪にも屈しない。
真っすぐに生きて、その背中に周りの人は感化される。
時に周りが見えない程、勇ましい人。


私達の、勇者。




.

トップページへ