血の匂いが鼻につく。血溜まりに佇む姿はどこか浮世離れしていて。
「名前。」
振り返った顔は気怠げで、唇には紅を刺した様に血が滴っている。白磁の肌に赤が映えて背筋がぞくりと粟立つほど美しい。
視線が彷徨い獪岳と目が合うとへにょりと眉が下がった。
「獪岳ー。助けてくださいぃ。腕が見つからないんです…」
纏う空気が一変する。情け無い顔に獪岳は吹き出しそうになるのを堪えた。
「何処で飛ばしたんだよ。」
「この辺りの筈なんですけど暗くて見つからないんです…」
「これか?」
「あ!それです!!」
よかったーと獪岳から腕を受け取り、無くなっていた先に付ければ、切断面が吸い付き一体になった。千切れていたとは思えない様である。
手を握っては開いて感覚を確かめ、満足気に頷いた。
いつ見ても不気味な光景だと獪岳は思う。これではどちらが鬼かわからない。
その不気味さに名前はいつも孤立していた。
彼女もまた他人に関わろうともしなかった。
獪岳以外には。
優越感があった。他の誰にも懐かない獣を手懐けている様で。
だから、何も言わず自害したと聞いた時は驚愕した。
***
「何?あんたフラれたの?」
謝花妹の声に現実に引き戻される。どうなの?という彼女の質問に顔を顰めた。
「違えよ。こっちから振ったんだ。」
「ならなんでそんなにイライラしてんのよ。生理?」
「…ぶっ飛ばすぞ。」
「梅ぇ、やめとけ。獪岳は難しい年頃なんだよお。」
「同い年だろうが。」
好き勝手言いやがって。獪岳は謝花兄妹に構わず舌打ちをする。
「あのフラフラしてんのそうじゃない?」
アレ、と梅が指をさす。視線をやれば確かにこの苛立ちの原因で。梅の言う通り覚束ない足取りだ。
「……なあ、まずいんじゃねえの?」
商店街に続くこの道は車の通りはほぼ無い。
“ほぼ無い“だけで搬入のトラックやら宅配の車やらは通るのだ。まさに彼女の後ろにもその中のひとつである業務トラックがゆっくりとした速度ではあるが走っている。だというのにまるで気付いてない。フラフラと危なげない足取りだ。
「あの馬鹿!!」
ゆらりと体が傾げた時には獪岳は既に走り出していた。