もう朧げだが、あの日は月が異様に明るかった気がする。自身を見つめる六つの眼。体中の細胞が絶叫して泣き出すような恐怖。纏わり付く気配に勝ち目は無いと死を覚悟した。
そして脳裏に浮かんだのは、

「獪岳。」

ただただ微笑む彼女の姿だった。

けたたましく起床時間を告げる携帯のアラーム。久しぶりに遠い記憶の夢を見た。それもこれもあいつのせいだ。
忌々しくて獪岳はかぶりを振った。

もう、関係の無い事だ。

***

名前はわずかな期待を込めて図書室の扉を開けた。しかしというか、やはりというか彼はいなかった。

頭が痛い。少し吐き気もする。風邪をひいたのだろう。
今日は何もする気にもなれない。帰ろう。
名前は図書室を後にした。
あれからどうやって家に帰って、また学校に来たかも覚えていない。突き離す言葉が耳に残っている。

「お前にはもう付き合えない。」

じわっと浮かんだ涙を慌てて拭う。こんな往来で恥ずかしい。視界もなんだか歪んできた。早く家に帰ろう。タイミングよく電車にも乗れて後は歩いて帰るだけ。

あ、

数歩先に見知った背中がいた。その隣には学園三大美女の姿。

動悸が早くなる。冷や汗が出て、手先が冷えていく。
そうか、もう隣にいる人がいたんだ。
昨日突き離されてわかっていたのに。それでも脳裏の片隅に、まだ可能性があるのではないかと。

それ以上その姿を見たくなくて、顔を逸らした。体がうまく動かせず、足がもつれてよろける。朦朧とした頭は背後まで迫っていたトラックに気付かなかった。

トラックのヘッドライトが目の前で光っていた。

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