名前が自害した事を知ったのは鬼になった後だ。会いに行ったあれの家は焼け焦げて跡形も無かった。
聞けば任務に出た次の日に館に火をつけ腹を切ったらしい。一族郎党道連れだったそうだ。それは随分前に決定されていたという事もその時に知った。あの時のどうしようもない感情は今も胸の内にある。
好きだ。好きだった。でもお前は違ったんだな。何も言わずにいなくなる程度。俺はお前にとって『その他大勢』だったのか。
上弦の壱と対峙し、最後だと思った。その最後に、一目でもいいから会いたいと願ったのはお前だった。鬼に堕ちてなお会いたいと。
またどうせいなくなるんだろう。思い出したら、俺の目の前から。
そう考えるととてもじゃないが隣になどいる気にならなかった。今なお好きだと認めたくなかった。
なのに、
トラックにぶつかりそうな名前の様子を思い出す。
あの時手が届かなかったら?俺がトラックに気付かなかったら?
名前の反応からして完全にトラックに気付いていなかった。あのままだったら確実に死んでいただろう。本当に呆気なく、はじめからいなかったように。嫌だと思った。名前がいなくなる事がとてつもなく恐ろしかった。
眠っている名前の頬に触れた。熱が更に上がったのか熱い。呼吸も僅かに苦しそうだ。慰めるように撫でた手がふわふわとした髪をかすめる。
きゅう、と心臓が苦しくなる。この痛みを獪岳は知っていた。
忘れたかった。諦めたかった。到底こんな気持ちは認めたくなかった。
あのまま彼女がいなくなればこの気持ちも消えたのに手を出してしまった。ならばもう心はとっくに決まっていたのだ。
「名前、」
返事はない。
「好きだ。」
好きだ。好きだ好きだと一度口に出してしまったら戯言のように止まらない。祈るように彼女の手を両手で握り締める。愛おしくてたまらない。既に一度手離した。この先彼女が自分を拒絶しようとももう二度と離さない。