バサリとかけ布団を掛けられる。後でもう一度聞くからな、と獪岳は痣について忘れてはいないようだが今は名前の身体を優先させてくれた。泣いたせいか頭がひどく重い。
「まずは何か食わねえとな、うどんでいいか?勝手に台所使うぞ。」
「薬だけで大丈夫ですよ。」
「胃がやられるだろ。てか、冷蔵庫に何も入ってねえけどいつも何食ってるんだよ。」
あ、もう見てしまったのか。名前の様子に獪岳は何か悟ったようである。再び眉間に皺を寄せて恐ろしい面持ちになっている。顔にまずいと書いてあるだろうか。これ、言っても言わなくても怒られるヤツだ。思わず明後日の方向を見て名前は口を開く。
「け、健康バランス栄養食…」
暫しの沈黙後。
「ぶっ殺すぞ。」
みしりと万力で頭を掴まれる。(所謂アイアンクローだ。)
「ごめんなさいごめんなさい。額が割れます。」
「そんなん社畜が食うもんだろうが。今世もポンコツか。」
「社畜は偏見でしょ。」
「ったく、お前は俺がいないと駄目だな。」
額を割らんとしていた大きく思いの外温かい手が髪を梳いて、柔らかく笑うので胸がきゅうっとする。
「そうですねえ、ダメダメです。」
つられてへにゃりと笑みが溢れる。それに再び笑うと獪岳は体を屈めて額に口付けをした。
離れていく熱に行かないでほしいな、と視線をやれば更に口角を上げる。
「そんなに寂しがるんじゃねえよ。」
何も出来やしねえ、と迷惑そうな口調だというのにどこか嬉しそうだ。髪を乱雑に混ぜると部屋を出て行った。遠のいていく足音に自然と目蓋が重くなり名前は素直に意識を手放した。
***
ただ純粋に怒っている理由が知りたかった。
期待してくれる師がいて、心配したり、自分の事みたく怒ってくれるや弟弟子がいて、雷の呼吸の才能もあって、どれだけ贅沢か理解していないこの男はどうして傲慢でいられるのか。
けれど答えは自分自身の事のようだった。
人間なのか、鬼なのか分からない、戦わなければ要らないモノの自分に似ていると勝手に思って。既に一人なら自分が居ても迷惑ではないだろうと甘えて。
腹を切る時何も伝えなかったのは、形に、言葉にしたらできなくなると思ったから。
慇懃無礼が服を着て歩いているような碌な男ではなかったけれど、意外と面倒見が良くて、手を焼いてくれる彼が心残りなど真っ平御免だ。
今もそれは後悔がない。
後悔はないが違う選択をしたら、それぞれ違う結末になったのだろうか。