「ご馳走様でした。」
名前はそう言い箸を置く。黄金色のお汁のうどんはとても美味しかったのだがやはり体が辛く沢山は受け付けなかった。
「ん。」
「あ、ありがとうございます。」
ローテーブルで同じく食事をとっていた獪岳が水と薬とを渡す。それを飲むのを確認し再び獪岳は腰を下ろした。そして自身のうどんを啜りながら口を開く。
「親御さんはいつ帰ってくる?」
名前は問いの意味が理解できずベッドの上で首を傾げた。
「帰ってくるまで居てやる、って言ってんだよ。」
ぼんやりとした頭は中々言葉を理解できない。暫し反芻してガバッと起き上がる。
「いやいやいや!何度も言いますけど、子供じゃないんだから、一人で大丈夫ですよ!大した事ないですし!!」
それに獪岳は心底信用していないという眼差し。
「お前の信頼度マイナスだからな。」
「ゼロ振り切ってんですか。ええと、…もうすぐ帰ってくるので、大丈夫、です」
「………」
「………、ごめんなさい嘘つきました。今二人とも海外赴任中で留守にして、うああー、ごめんなさいごめんなさい!」
無言で額にデコピンをされる。鈍い音がした。地味なのに痛い。
「仕方ねえな。連絡してくるからお前は寝てろ。」
「え、どこへ?」
「家。」
「なぜ?」
「泊まる。」
「なぜ!?」
うるせえな、と獪岳は構わずスマホをタップして部屋を出て行った。名前はベッドで頭を抱えた。意思疎通ができない。
廊下で何やら声が聞こえる。少し怒鳴っているようだ。迷惑なのでは、と名前は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「…寝てろよ。」
戻って早々、体を起こしている名前をギロリと睨む。う、と詰まる言葉。しかし負けずに口を開く。
「獪岳、ご家族に悪いし、帰って大丈夫ですよ?」
獪岳は少し目を見開いてから、口角を上げて名前にのし掛かった。ベッドに沈む名前は目を白黒させるしかできない。
「呼び捨てになったな。」
「…ダメ?」
「いや、」
気分が良い、と名前に頬擦る。顔に一気に熱が上がっていく。
「近いです!離れて、」
「安心しろ。体調悪い奴には手え出さねえよ。」
再び耳に直接入ってくる声に体が震える。
今は手を出さない、という事は体調が良くなったら手を出すという事だろうか。いや、先程から口付けもしてるし手が出てるのでは。ぐるぐる考えていると上で小さく笑う声が落ちてきた。
「茹で蛸みてえ。」
「なっ、なっ、だって、もうっ!もう良いです!好きにして下さい!」
「おー、おー。好きにさせて貰うぜ、茹で蛸。」
「茹で蛸じゃないっ」
獪岳を押し退けて掛け布団の下にすっぽり名前は隠れてしまった。愉快そうにそれに笑う。
「片付けるから今度こそ寝ろよ。」
立ち上がろうとすれば、布団の隙間から白い手が控えめに袖を引く。身を屈めると、熱かそれとも羞恥か少し潤んだ瞳と目が合う。ん、と頭を優しく撫でる。
「…家の中は好きに使って下さい。お風呂入るならタオルは引き出しの中です。あと、あの、…少し傍に、いてくれませんか……」
眠るまでで良いので、と徐々に語尾が弱くなっていくのに獪岳は目を細めた。