呼吸が規則的になった事を確認して獪岳は静かに立ち上がった。壁の明かりの電源を落として部屋を後にする。
シンクで食器を洗いながら明日の事を考える。
食欲が無いようだから朝も胃に優しい物がいいだろう。米はあるようだからお粥にするか。もし食欲が戻ってるようならその時はまた考えよう。梅干しと卵を買って来たからおにぎりと卵焼きでもいい。
ある程度朝の準備をして時計を見れば短針は9を過ぎていた。
とりあえずシャワーを借りようと再び廊下に出る。先程は見逃した沢山の額縁に目がいく。
家族と写る満面の笑みの名前の姿だ。幼い姿から制服を着て微笑む姿などどれも幸せそうな写真につられて笑みが浮かぶ。
「今世は、家族に恵まれて良かったな。」
そっと指で写真をなぞった。
***
風呂場でシャワーを浴び、学校で使用したジャージに着替えた。そこかしこから名前の匂いがするようで少し落ち着かない。彼女の部屋に戻れば苦しそうな息遣い。頬に手をやれば熱が上がっているようだった。額に貼ってあったシートもぬるくなっている。
交換してやろうとした所、気配に気付いたのか薄っすら目を開けた。ゆらゆらと視線は危うい。
「タオル、分かりました?」
「ああ。」
冷たいぞ、と額のシートを貼り替えると一度強く目を瞑った。
「お布団、納戸の、中なんです。わかるでしょうか…?」
こんな時にまで他人の心配とは。呆れて思わず嘆息する。
「…少し詰めろ。」
獪岳の意図に気付いて宵風は小さく頭を振った。
「……。本当に、風邪が移ります…」
譲りそうにない名前に、実力行使とばかりに獪岳は掛け布団を捲ってベッドへ滑り込む。睨みつける視線に素知らぬ顔をする。
「馬鹿は風邪ひきませんもんね…」
「おいコラ、もういっぺん言ってみろ。」
名前は恨み言を言いながら諦めて端に寄った。風呂上がりの獪岳の香りにくすくす笑みをこぼす。
「変なの。獪岳から、うちの匂いがします…」
家の中にあった物を使ったのだから当たり前なのだがなんだかこそばゆい。指摘された獪岳も同様だ。
「いいから寝ろ。俺も寝る。」
「ふふ、はい」
おやすみなさいと、再び目を閉じた。