グツグツと白い泡が浮かぶ鍋に、大匙ひと匙の塩を入れる。実際にはカレースプーンなのだがこれくらいは問題ないだろう。あとはパスタを入れるだけなのだが、はたと煉獄は手を止める。困った事にどれだけ入れればいいのか聞きそびれた。
一袋に五つの束。少なく見えるが一袋で足りるのだろうか。暫し逡巡した後にストック分と合わせて二袋入れた。
「うわあぁーっ!何してるの!!」
風呂掃除を終えて台所に顔を出した名前が悲鳴をあげて駆け寄って来た。パスタが入っていた空袋二枚を持って震えている。
「言われた通り茹でているのだが?」
「量が多過ぎ!」
「これくらい余裕ではないか?」
しかし、茹で上がったそれを見て、よもやと煉獄は驚愕した。三倍は増えているのではないだろうか。絶句している煉獄に名前は苦笑する。
「ね?パスタってすごく増えるんだよ。」
量の指摘をしなかった私がいけないんだけどね、と複数の大皿にパスタを分ける。
「まあ、残ったらグラタンもどきとか、サラダとかにするから。」
「それはそれで楽しみだな。」
彼女が一から作るホワイトソースがたっぷりかかったグラタンを想像して腹が鳴った。それが聞こえたのか名前の肩が小さく震える。コンロ前に立つ彼女の腹に手を回して、肩口から手元を覗く。擽ったそうに微笑む横顔に笑みが溢れる。
「シェフ今日のパスタは何味なのかな?」
「ミートソースですよ。さあ、食べよう。杏寿郎のお腹と背中がくっつく前に。」
大皿に真っ赤なミートソースが絡まったパスタの山。更にごろごろ食べ応えのありそうなミートボールまで載っている。数ヶ月前、金曜の夜に放送していた古いアニメの料理が彷彿される。
「カリオストロの一回やってみたかったんだよね。量が多い時じゃないとできないし。」
「いつの間にここまで作ったんだ?」
「お弁当用ストックを使ったの。じゃあいただきます。」
「うむ、いただこう。」
両手を合わせ、いざ食べようと自身の皿に移そうとするが中々上手くいかない。テーブルが汚れてしまいそうだ。それを見兼ねて名前が煉獄の皿に取り分けた。
「テレビの通りにはいかないな。」
「それはそうでしょ。」
くすくす笑いながらミートボールも複数載せる。フォークに巻き付けて口に運ぶ。
「うまい!」
「ははは、おいしいね。」
ミートボールも肉が弾けて美味い。粗めの挽肉を使ったと言っていた気がする。
「うまい!うまい!」
「たくさんあるからね。いっぱい食べて。」
「うまい!うまい!」
「この皿が空いてまだ食べれそうなら違う味にしようか。」
「そんな贅沢を!?」
目をキラキラさせる煉獄は普段と異なり子供のようだ。口の端に付いたソースもより幼さを出しているのかもしれないが。
「やっぱり杏寿郎と一緒に食べるごはんが世界一おいしい。」
「むぐ」
ティッシュで口を拭われて変な声が出た。
「俺も君と一緒だと世界一幸せだ。」
そう口にすれば、少し照れて嬉しそうに笑う。このなんでもないような穏やかな時間が煉獄は堪らなく愛おしいのだ。
結局大量にあったパスタは煉獄一人で腹の中に収まった。