桑島慈悟郎は肝が据わった方だと自負がある。並大抵の事では驚かないとこの時までは思っていた。気難しい自身の子供(というよりは孫に近いのだが)が可愛らしい少女を連れて来るまでは。




ピロンというメッセージの通知音にスマホに目をやると珍しく養父からのもので、善逸は眉を顰めた。文字入力が難しいからと基本的に通話のみしか使用しないというのに。メッセージを開くとやはり難解な文字が並んでいる。メッセージを見てるうちにもポコポコ吹き出しが飛んできて慌てぶりが目に浮かぶ。

「えぇーと、なんだこれ。か、か、…獪岳か?」
「何してんだよ、紋逸。チョコパイいらねえなら食っちまうぞ。」
「あっざけんな!クソ猪!!それ限定品なんだぞ!!」
「こら、伊之助やめないか。」

横から手を出す伊之助を抑え込む。見兼ねた炭治郎が自分のナゲットを分けてくれると言うと大人しくそちらを食べ出した。炭治郎には悪い事したな。ポテト分けてやろう。
しかし今は爺ちゃんからの謎メッセージの解読を優先させて欲しい。

「どこまで読んだかな。獪岳が、かなしよ?つれてきた?かなしよ?」

連れてくるものって何?あいつ動物嫌いそうだし、動物は無いな。爺ちゃんはスワイプが使えないからタップし過ぎたのかな。あと濁点と文字を小さくするのも出来ない。となると、

「あああぁああーーーっ!!」
「善逸!静かにしないか!!他のお客さんに迷惑だろう。」
「ごめんねえ!でもそれどころじゃねえんだよ!!」

わかった。判明した。これ、あれだ。“かのじょ”だ。彼女。

「ちょっと俺急用ができたから帰るわ!」

鞄を肩に掛けて駆け出す。後ろから炭治郎がまたも店内を走るなと注意する声が掛けられるがそれどころではない。食べれなくてごめんな、ポテトとハンバーガー、あと冬季限定のチョコパイ。今度絶対クソ兄貴に奢ってもらうからな。


***

どうぞ、と桑島に茶を出す。次に自分と名前の分をテーブルに置く。

カチコチに緊張して固まる名前を、獪岳はだからやめとけと言ったんだと一瞥する。
どうしてもこの前宿泊してもらって家族に心配を掛けたから挨拶をと言ってきかないので獪岳がとうとう折れて連れきたのだ。小学生のお泊まり会でもないのだから気にする事ではないと思うが見た目より頑固者の彼女はこうでもしなければ譲らない事は目に見えている。

横戸が開く音に、獪岳は眉間に皺を寄せる。横の名前も不思議そうに顔をあげた。しばらくして部屋に飛び込んできた金髪に舌打ちが出る。

「はあ、はあ、た、ただいま、」
「何しに来たんだよ。」
「ここ俺のうちよ!?」

善逸に会わせるのは癪なのであいつはいない日を選んだというのに。

「あ、あの、はじめまして、名字名前でしゅ。」

パッと座布団から立ち上がって挨拶をする少女。大人しそうな印象の可愛らしいといった言葉がよく似合う。色が白いからか、緊張で朱色をさす頬がよく映える。です、と言い直す所も可愛い。
正直言えば意外だ。獪岳が選ぶのはこう、もっと綺麗めで、メリハリのあるスタイルがいいモデル的な女性を選ぶのではないかと。
なんて事を考えてると後頭部を叩かれた。

「見てんじゃねえよ。眼球潰すぞ。」
「アンタ、理不尽極まりないな」
「やめんか、お前達。獪岳、すまないが善逸の分の茶も頼む。」

桑島の一言にすみません、先生と素直に謝罪し、善逸を睨み付けてから部屋を出た。俺には謝罪は無いんかい。

「えと、改めまして、先日はお兄さんにお世話になりました。これ大した物ではありませんが、召し上がって下さい。」
「これはご丁寧に…、逆に申し訳ない。」

名前はおずおずと菓子折りを桑島に差し出す。
桑島と善逸の視線が合う。意図的に獪岳がいない状況を作ったのだ。この間に色々聞きたい事が山程ある。
『行け、善逸』という視線にこくりと応えをする。

「名字さん、でいい?」
「名前で大丈夫ですよ。君は、」
「善逸です。我妻善逸。あいつとは血は繋がってないけど、」
「弟さんですよね。仲が良いんですね。」

手を合わせて微笑む名前。花が綻んだ笑みってこんなのかな。超可愛い。勿論禰豆子ちゃんが一番可愛いけどね。でもさっきのやりとり見てて仲良いってどうなのかな。

「じゃあ、名前さん。一応確認だけど獪岳に無理矢理付き合わされてるとかではない?」

あの性悪が大人しい所につけこんで、という事はあり得なくもない。爺ちゃんも目を瞑って無言で頷く。
それもキョトンとした顔にその可能性は消えたが。

「私が好きで付き合ってもらってるので。」
「え、ええー…。ならさ、あいつのどこが好きなの?」

伏し目がちに頬を更に染める。

「や、優しい所ですかね。」

はにかみながらの答えに桑島と善逸は顔を見合わせた。

「名前さん一度頭の検査に行った方がいいわ。」
「おら、茶だ。」
「ぶあっち!!」

熱々の湯呑みを頬に押し当てられて善逸は悲鳴をあげる。湯呑みが当たった箇所は真っ赤に染まって、火傷したのではないかと思う程。獪岳は善逸が悶絶するのを尻目に名前の隣へ腰を下ろした。

「何話してたんだ?」
「色々です。」
「その色々を聞いてんだろ。」

あ、と優しい音に善逸は顔を上げる。
あの獪岳から聴いた事も無い音がする。暖かくなるような音。笑みを浮かべているわけでも無いがそれでも柔らかい眼差しで。
自然と涙が込み上げてきた。

「…、なんだ突然。」
「ほっぺそんなに痛むの?」

突然涙を流し始めた善逸にさしもの獪岳もギョッとする。名前も心配そうに顔を覗き込む。

「ごめ、ごめん。ちょっと、ちょっと目にゴミが、」
「ゴミが入って出る涙の量じゃないですよ。冷やす?獪岳、氷か何か持ってきてあげたら?」
「だい、だいじょぶう、うぅ、うっ」
「きっしょ。」
「うわあぁあん!くそあにきぃいーっ!!」

良かったなあ、獪岳。この人に会えて。
この人がこんな音にしてくれたんだろ。
心配だったんだ。また今世でも同じ運命になるんじゃないかって。でもこの人が直してくれたんだろうな。あんたの幸せの箱。

この幸せが一生続くといい。善逸は心底そう願った。



「愚兄ですが末永く宜しくお願いします。」
「何言ってやがる。」
「はい!お兄さんは私が幸せにします!!」
「お前も何言ってんだよ。」

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