『雷の呼吸、壱ノ型が全ての基本』
『他の型ができた所で大したことはない』
鞠が跳ねたように異形の頭が転がる。日輪刀にこびり付いた血液を振り払った。隊服に付いた返り血が不快で舌打ちをする。
苛立ちが止まらない。胸の内がどろどろと淀んでいる。俺は強い。壱ノ型ができないからとなんだというのだ。現にこれまで複数の鬼の頸を刎ねている。だというのに自身の周りは評価しない。ぎり、と獪岳は歯軋りをした。
「何をそんなに怒ってるんですか?」
背後から掛けられた声に思わず肩が跳ねた。刀を構えて振り返るとそこには鬼殺隊の隊服を着た少女。気配に全く気付かなかった。年は同じ位だろうか。瞳まで長い前髪で隠れよく表情が分からない。
「お前に関係ねえだろ。」
「個人的に興味があるんで。」
微笑む口にぶちりと自分の中で何かが切れたのがわかる。気が付くと少女の胸倉を掴んでいた。
「全部だよ。どいつもこいつも馬鹿にしやがって。大した力もねえ癖に。俺よりも弱い癖に。」
怯えも泣きもしない無抵抗な少女に更に怒りが込み上げる。
「消えろよ。死ね。てめえら全員死んで俺に詫びろ。」
「でも人に認めてほしいんでしょう?」
胸倉を掴んでいた手を離した。
「本当はちゃんと自分を見て、人に必要とされたいんでしょう?」
そうだ、俺は努力したんだ。鬼を殺せば、人の役に立てば、許してもらえるのではないと思って。不要なものから必要とされるものになりたくて。
「俺は、いらない人間なのか。」
意図せずぽろりと言葉が溢れる。予想しない言葉だったのだろう。見え隠れする少女の瞳が大きく見開かれたのがわかる。何度か瞬きをすると再び目を細めて笑った。
「私はいらない人間なんていないって思いたいです。でないと私も“いらないもの”だから。」
よし、と少女は手を打った。
「お腹空いてません?これお茶屋さんで貰ったお饅頭なんですけど一緒に食べましょう。お腹がへるとイライラしますし。」
「いや、腹へってるから怒ってる訳じゃねえから。」
「はい、ここ。ここに座って。」
「聞けよ。」
「私は名前です。あなたは?」
少女の呑気さには呆れたものだったが、その日隣で食べた歪な饅頭はとても甘くて美味しかった。