珍しく杏寿郎は悩んでいた。

鬼殺隊の一員となり忙しい日々を送るようになった。鍛錬に任務そしてまた鍛錬。人よりも辛抱が効く体故に辛いとは感じない。共に鍛え支え合う友も増えて鍛錬にも任務にも力が入る。至って問題ない生活なのだが、そこに幼馴染が絡むと自身の心の制御が出来なくなる。

討伐が主の自身の任務と異なり、彼女は潜入調査を主としていた。その為中々顔を見合わせる事は無い。時折他の隊士と並んで歩く姿を見掛ける。笑いながら遠ざかる背中にどうしてか胸が苦しくなる。

そこは、名前の隣は、俺の場所だったのに。


「…と、いう訳で名前が誰かと仲良くしていると無性に腹が立つような、食べ過ぎて胸焼けがするような不快な気持ちになるんだ。」

杏寿郎に相談を持ち掛けられた彼女の兄は幼い少年の悩みに苦笑する。

「名前が取られた気分になる。兄である貴方もこんな気持ちになるのだろうか?」
「いや、俺はあの子が他の子達と仲良くやれて嬉しいと思うよ。」
「…自身の心がここまで狭量だとは思わなんだ。」

力の制御が出来ず一人他人と距離を取っていた少女が努力を積み重ねてやっと友人が出来たというのに、己はそれを喜ぶどころか妬んでいる。幼馴染として最低だ。
頭を抱える杏寿郎に帷はとうとう耐え切れず吹き出した。それを杏寿郎は不思議そうに見上げる。

「ははは、無自覚とは。」
「何が無自覚なのだろう?」

尚も可笑しそうに笑う帷は一つ咳払いをした。

「俺とお前の立場は違う。妬ましく思うのは仕方ない事だ。」

とん、と心臓を指差される。

「俺はあの子を妹として好いているが、お前は異性として好いている。」
「なっ!?」

よく考えろ、と再び指が心臓を突く。全くもってそんな筈は無い。

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