分厚い黒いカーテンの隙間から僅かに光が漏れ、部活動に励む運動部の声が遠くに聞こえる。

鼻にテーピングをした男子生徒が下卑た笑みを浮かべて腰からベルトを抜く。

「これで腕縛るぞ。」

それに引き摺られて連れてこられた名前はまずい、と現状に冷や汗をかいた。羽交い締めにされた腕を振り払おうともがく。

「何をするつもりですか?」

想像出来ない事ではないが彼らに問い掛けるとケラケラ楽しげに笑い、スマホを向ける。

「ハメ撮り。」
「遠慮しま、すっ!」

カーディガンを残す形で腕から体を擦り抜く。引きちぎれた釦が乾いた音を立てて飛ぶ。机や椅子を乗り越えて引き戸に手が届く、という所で髪を引かれ、悲鳴と共に冷たい床に叩き付けられた。覆い被さる体に名前は尚も抵抗する。

「やめて、やめて下さい!」
「往生際が悪いんだよ。」
「離し、う、」

左耳がキーンとする。遅れてじわじわと熱を持つように叩かれた左頬が熱くなっていく。痛みで鈍くなった抵抗を見逃す筈もなく、両手は頭上に纏められ、口にはどこから持ち込んだのかテープを貼り付けた。

「恨むんなら自分の彼氏を恨みな。」

足の間に割り込んだ男子生徒がにやりと笑う。
焦らすように、これから犯すのだと見せつけるようにゆっくりと名前のネクタイを引き、ワイシャツのボタンを外していく。露わになる肌に男達が色めき立つ。

「あ?キスマークか?これ。」

指摘する箇所には自身も気付かなかった赤い痕。付けた人物は一人しかいない。

獪岳、

想い人を思い浮かべてしまったら、苦しくなってきた。じわりと視界が歪む。
お、と男子生徒が笑う。

「いいねえ、そそるわー。」

泣いても喜ばせるだけと頭で分かっていても、盛り上がった涙は頬を伝って。

嫌だ。嫌だ。獪岳にしか触られたくない。
あの大きくて存外温かくて優しい手が恋しくて堪らない。

助けて。助けて、獪岳。


バキッと引き戸が激しい音を立てて吹き飛んだ。薄暗かった室内に夕日が差し込む。扉を破壊した人物は室内を見回すと組み敷かれている名前を押さえる男子生徒を蹴り飛ばした。突然の出来事に呆然としていた彼らがそれを機に一気に逃げ出す。蜘蛛の子を散らすとはこの事だろう。しかし逃げ出す事を彼は許さない。

「妓夫太郎!一人も逃がすなよ!!」
「任せろお。」

のんびりとした声音だが凶悪な笑みを浮かべた妓夫太郎が返事をする。

押さえる力が無くなった名前はゆっくり起き上がって、頭上を見上げた。逆光で表情は見えない。

しゃがみ込んで、悪い、と小さく呟いて口のテープを剥がした彼はぎゅう、と名前を抱きしめた。

「獪岳、」

そこから先は言葉にならなかった。今度は安心して涙が止まらない。未だ拘束されている手が憎い。彼の背中にしがみつきたいのに叶わないから。



胸に擦り寄る小さな体が震えているのに獪岳はどうしようもない程激しく怒りを覚えた。嗚咽を溢す声に、そうさせた奴らを全員殺してやりたいと本気で思った。

「一応全員伸したぜえ。」

とりあえずそこにあったホースで縛っといた、と妓夫太郎は獪岳の背中に声を掛けた。
怯え震える体を離し、拘束をとる。涙を流して不安そうに揺れる瞳に自身のカーディガンを被せた。

廊下から聞き慣れた汚らしい高音が聞こえる。

「さっさと来なさいよ、この愚図。」
「突然呼び出しておいて愚図って何だよ!可愛けりゃ何しても良い訳ないんだからね!!」

頼んだ通り梅が善逸を引きずってやってきた。不良と名高い謝花妹が怖いのだろう。善逸はやや怯えている。

「ねえ、何?なんなの?ちょっと怖いんだけどぉ…。って名前さん!?え!なんで、あ!まさか獪岳!!?あいだあぁっ!!」
「うるっせえな。黙れ。」
「殴る必要性は無かったよね?!」

ぎゃんぎゃん騒ぐ善逸に獪岳は気にした風もなく鞄を渡す。それは自分の物ではなく名前の物。

「お前、こいつ連れて家に帰れ。」
「え、なんで、」
「一人にさせたくない。」
「なら、獪岳が居てやれば?」
「そうしてやりたいが、俺はまだ用がある。」

だぼだぼのカーディガンを羽織って泣きじゃくる彼女の姿に善逸は自分では役不足だと言う。納得のいく話ではない。今は獪岳が傍にいるべきだろう。

「頼む。お前にしか頼めない。」

喉に熱いものが込み上げて来る。

「おう!任しとけ兄貴!!」

ぐっと拳を上げる。背を向ける獪岳も応えを返すように同じく拳を上げたのを見て、何があっても兄の恋人を守ろうと心に決めた。

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