※番外編1の続き。
名前はちらちら頭上を舞う、橙色の火の粉を眺めていた。
綺麗だな、と手を伸ばそうとするが血が足りないのか鉛のように重くて動かない。
死ぬ事に後悔はない。寧ろこの下らない責務から逃れられると思うと清々する。本当にうちの一族は屑ばかりだったな。
斬った腹から血は流れども意識は遠のかない。火の回りが早いから腹の傷よりも焼け死ぬのが早いだろう。
目蓋を閉じれば、いつも眉間に皺を寄せていた友人が思い浮かぶ。
「長生きしてくれるといいなあ。」
ふふと思わず笑みが漏れた。
***
先日の月夜が嘘のように土砂降りの雨。冷たい雨が体を打ちつけるのに構わず獪岳は歩く。じゃり、と恐らく建物の一部だった炭が足元で鳴る。
彼女の屋敷は見る影もない。
彼女はいない。もう、どこにも。
ああ、この胸の痛みはなんだろう。苦しくて苦しくて仕方ない。
最後に握りしめた手に視線がいく。
抱きしめたい。
会いたい。会いたくて会いたくて堪らない。
どうして気付いてしまったんだろう。彼女に恋をしていただなんて。取り返しがつかない今になって。間に合わない、今更になって。
頬を冷たい雨水が絶え間なく流れて行った。