「あの子を助けて。」

名前の旧友からあれを乱暴する話を聞いた。

聞いた理科準備室の扉は鍵が掛かっていて手を掛けても動かない。滅多に使わないのだから当たり前な状況だが、明らかに中に人の気配を感じてらしくもなく焦る。

名前が俺ではない他の男に触れられるなど許せない。

後先を考えず扉を破壊した。

まず目に入ったのは複数の男に押さえ付けられている名前で。白い肌が覗く様に頭に血が昇る。加減なく組み敷いている男を蹴り飛ばす。しっかりと入った蹴りに椅子を巻き込んで男を弾き飛ばした。机にぶつかりそのままぐたりと倒れる様子では暫く目は覚さないだろう。
男の下にいた名前はゆっくりとした動作で起き上がる。口を塞ぐテープを剥がすと震える声で自身の名前を呼んだ。それがどこか頼りなく、切なく聞こえて苦しい。抱き竦めれば泣きじゃくりながら胸に擦り寄る様子に初めて彼女の手が拘束されていた事に気付いた。

殺してやる。




「で?どうするよ、コイツら。」

妓夫太郎の声に現実に戻される。
コイツらと表された男供は妓夫太郎が足で小突いてもぐったりとして動かない。

「早くしねえと誰か来るぜ。」

誰かさんが考えずに大暴れするから、と言う皮肉を一瞥する。
しかし妓夫太郎の言う通りだろう。扉を壊す際に物音を立てすぎた。教師達が来れば面倒な事になるのは目に見えている。

「おいコラ起きろ。」
「うぅ、」
「起きろ。」
「いってえ!」

耳を引っ張ると情け無く悲鳴をあげる。

「パスワード教えろ。」
「は?」

獪岳は先程拾ったスマホを指差す。

「…言わねえよ。」
「そうか。」
「ぐあっ!」

頬を拳で殴る。口内が切れて僅かに血が飛ぶ。それを冷たい双眸が見下ろす。髪を鷲掴んで項垂れる頭を無理矢理上げて視線を合わせると、

「そっちがその気ならこっちも考えがある。」

口封じって知ってるかと彼は嗤う。

「両手の指を全部折って、喉を潰す。治る頃にはこんな一悶着無かった事になってるだろうな。」

緩く弧を描く口とは打って変わって全く笑っていない瞳の奥には激しい怒りがある。ついと男の首に手を掛ければ冷や汗をかいて具合の悪そうな顔が引き攣った。獪岳なら本気でやるという事を彼も理解しているのだ。

「…言わねえか?」
「言う!言うからやめてくれ!!」

僅かに力が入った手に男は悲鳴のように口早に数字の羅列を口にした。その通り画面をタップし、ロックの外された画面から画像アプリを起動させる。
予想通り先程の蛮行が残されていた事を確認するとそのままスマホをポケットへとしまった。

「あ!おい!返せよ!!」
「んな事言える立場じゃねえだろ。」

ギロリと睨み付ける目に男はぐっと口を噤む。それに満足したのか縛っていたホースを解く。

「お前らのやった証拠は預かる。もし次にあいつに手え出して見ろ。お前らのした事もバラす。」

思いの外痛め付けられる事も無かった事に安堵の表情を浮かべる男供に、つまらなそうな妓夫太郎。
あ、と忘れ物でもしたかのように獪岳が呟く。それと同時に男の体がくの字に曲がり、次いで吐瀉物が床に撒き散る。

「落とし前は付けて行けよ。」

蹲る男を見て固まる他の男供にもそれぞれ顔やら腹やらをど突く。脳内には泣きじゃくる名前の姿。

鈍く響く悲鳴。沸々怒りが湧いて消えない。一番許せないのはこの要因を招いた自分自身だ。守りたかったのに酷い目に遭わせた。
ああ、くそ。
自身の不甲斐なさがこんなにも歯痒い。

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