世の中は不平等だ。何の罪のない人にも哀しみは襲って来る。



最愛の妻の死に夫である槇寿郎はひどく、それはそれはひどく憔悴していた。子供だった自分にもよくわかる程で恐ろしいと思った。悲しみはたった一晩で人を変えてしまうのだ。

そんな中幼馴染は普段と変わらず凛としていた。まだ何が起きたか理解できずにいる弟を抱いてあやしている。

「杏寿郎、」
「名前、どうした?」

名前の呼び掛けに彼はにこりと微笑んでいつも通りに返事をした。

言葉が出なかった。泣きたくなった。悲しみにぴたりと蓋をして笑みを貼り付ける様があまりに痛々しかったから。自分とたった二つしか変わらない少年は急に大人になってしまったようだ。

否、急に大人などになれる訳がない。彼はどれだけ己の心を殺して此処に立っているのだろう。


「心を燃やすんだ。どんなに悲しみが深くても、前を向いて進まなければならない。」

その囁きはまるで自分に言い聞かせているようだった。

「母上と約束した。後を任された。俺は俯いてはいられない。」

神様、どうしてですか。
この人達は幸せに守られていて欲しかったのに。

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