今でもはっきりと覚えている。兄が失踪する前の朝。 いつも通り屋敷を出て行く兄を見送りに出た。いつも笑って髪を撫でて出掛けていく。けれどもその日はいつまでも髪を撫でていて。 「兄さん?」 「ん?なんだ?」 「えと、」 普段通りだけれど、自身を見つめる瞳がどこか、何かが違うのに上手く言葉にできない。 あの違和感を口に出来ていたら兄はいつも通り帰ってきたのかもしれない。 「何でもない。気を付けていってらっしゃい。」 「ああ、行ってくる。」 それが最後の会話だった。