四月馬鹿のほんの少しの出来心。
「他に好きな女性が出来たから別れてほしい。」
普段ならこんな嘘は絶対に吐かない。
友人達とこれからの新生活に向けて激励会を兼ねた飲み会で、恋人に突然別れを告げたらどうなるかと話題に上がった。気になるか気にならないかで言えば気になる。というわけで酒の勢いもあって今に至った。
自身の恋人は泣くでもなく、怒るでもなく、うつらうつら眠そうだったのがまるで嘘の様にすくっと立ち上がった。目が完全に据わっている。
「そう。なら私は荷物を纏めて出て行くから。」
淡々とベッドの下から取り出したスーツケースに自身の服を詰め込むのを慌ててその肩を掴んで止める。
「待て待て待て。すまない。嘘だ。エイプリルフールだ。頼むから出て行かないでくれ。」
「すぐ謝るならそんな嘘吐かないでよ。」
心底下らないと言った表情で手にした服を離した。それに安堵して掴んだ肩を抱きしめる。肩口に顔を埋めると酒くさいと非難の声がするが、離したら逃げてしまう気がしてその手を離せない。
「どうせ今日の飲み会で宇髄さん辺りにでも焚き付けられたんでしょ?」
「うっ、君は洞察力があるな。」
煉獄に抱きすくめられた名前が彼の胸に額を押し付ける。
「あのね、本当に別に好きな人が出来たら言って。」
思わず肩を抱いた手がびくりと動く。下の彼女を覗くがぴたりと胸に付いている為その表情は窺えない。
「貴方には一番好きな人と幸せになってほしい。」
「俺は、」
君以外に考えられない。
そう、形にする間も無く名前が煉獄の胸から顔を上げる。
「貴方の一番でいられる様にずっと努力するから。」
大丈夫、と微笑む。
「貴方の一番にずっといるから。」
呆けた顔にちゅっと軽いリップ音を残して触れるだけのキスをすると、煉獄の腕を擦り抜けてベッドに潜り込む。普段なんの執着も見せない彼女の熱烈な言葉に煉獄の頬は一気に紅潮する。
「君はなんて可愛いんだろうかっ!これ以上俺を虜にしてどうする気なんだ!!ああっ好きだ!堪らなく好きだ!!」
何事も無かった様に眠りにつこうとする彼女に覆い被さるが『酒くさいのでシャワー浴びて来てください』と冷たくあしらわれる煉獄だった。