「獪岳?」
ソファに腰掛ける彼に声を掛けるも応えはない。そっと覗き込めばいつもの鋭い双眸は隠れて、静かに吐息を立てている。
珍しい、と名前は心の中で呟く。
視線をやっても目を覚さない彼に名前は音を立てないよう部屋を出て、ブランケットを持って戻ってきた。寒くはないだろうが念のため。ふわりとそれを彼の膝に掛ける。やはり目を覚さない。
名前はソファの腰掛けに手を置いてフローリングに座って獪岳を見上げる。整った顔。適度に白い肌。黙っていればかなりいい男である。何故起きているとあんなに罵詈雑言が出るのだろう。甚だ疑問だ。
「…うるせえ」
「うわ」
ギロリと切長の双眸が名前を睨む。寝起きも相まっていつもの倍人相が悪い。
「静かにしてたよ?」
「視線がうるせんだよ。」
「何それ。」
「膝貸せ。」
「は?」
来い、と腕を引いてソファに座らされたかと思うとその膝にどかりと頭を載せた。ふわふわと触れる黒髪がこそばゆい。
「重いんだけど。」
「…構って欲しかったんだろ?」
獪岳の言葉に名前は目を瞬かせた。図星だったからだ。それを誤魔化す様にフローリングに落ちたブランケットを再び彼の体に掛ける。
「仕方ないから我慢してあげる。」
「そーかよ。」
なんとなく悔しいので肯定の言葉は返さなかったが、意地悪く少し口角を上げた彼にはお見通しだろう。それもまあいっか、と再び目蓋を閉じた獪岳の髪を楽しげに指で梳く名前であった。