「…っ、」
「?、どうしたの?」
隣で食器を洗う獪岳の肩が僅かに揺れる。横でその食器を拭いていた名前は忌々しげに舌打ちをする彼の手元を覗き込んだ。
「わ、あかぎれ。痛そう。」
「別に大した事ねえ。」
「ハンドクリーム塗ってあげる。ほら、こっち。」
手早く獪岳の手を拭いてソファに座らせ、その手のひらに微かに柑橘系の香りのするクリームを出した。
「…量多過ぎじゃねぇか?」
ベタベタになるわ、と獪岳の眉間に皺が寄る。名前は気にした風もなくクリームの載った手の上に自身の手を重ねた。
「大丈夫。二人分だから。」
「は?」
暫しそのまま待つとじわりとクリームが体温で柔くなった。
それを待っていたとばかり小さく細い手が獪岳の手と指とにクリームを満遍なく塗る。いつになく真剣に手を掛けるその姿に柄にもなく胸がむず痒くなって、彼女から目を逸らす。
その獪岳の様子を何と勘違いしたか、ハッとした表情で名前が顔を上げた。
「ご、ごめん!一人でできるよね!?つい、うっかり、…」
母がしてくれたから、と徐々に小さくなる声と比例して、今更自分の行為が恥ずかしくなったらしく頬が赤くなっていく。
「ふ、茹で蛸…」
「わ、笑うなよー!!」
その様子が少し可愛らしく、いじらしくて誤魔化すように笑みが溢れた。
「まだベタつく。最後までやれ。」
「うわ、命令形うざ。」
「お前が最初にやったんだろ。」
「そうだけどさー。」
「…他の奴にはやんなよ。」
意味を上手く汲めなかったようできょとんとした表情で獪岳を見上げる。それすら可愛らしいと思う自分は大分コイツに絆されていると自覚し、悔しくなってその額にデコピンをした。