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※ 大学生パロ
たった一文。場所を提示する言葉と”待ってる”の一言が送られてきたのは、今から30分ほど前のこと。時間を確認しようと明るくした画面にその通知を見つけたのは、講義の間律儀にサイレントモードに設定しておいた携帯の所為だ。
今日は部活じゃなかったのか。週に一度のオフには一緒に帰るとどちらとも無く決めた習慣は水曜日のもので、今日は月曜日。しかし送られてきた簡潔な文面は、水曜日の午後に取り付けられる例の約束と酷似している。
何か、変な感じ。
駅まで一緒に帰ろうとしていた友人に急用が出来たと断り、正門に向かう人波を遡るようにしてキャンパスの奥へと向かう。指定された場所は私達が落ち合うのに良く使う場所だった。緑が植えられた広場を横切り、悪戯心で舗装されたような細道を足早に進めば、人通りの少ない通用門の脇に立つ男が一人。
「及川!」
「あ、みょうじ」
駅とは真逆に設置されたこの通用門を使う学生はほとんどいない。使い勝手の悪いこんな場所を及川が態々指定する理由が、高校から引き続き一定数存在するファンの目を避けるための配慮だと気がついたのは最近のことだ。
「ごめん、携帯見てなくて」
「いいよー、今日は特別に許してあげる」
仕方ないなーと白い息を吐きながら笑った及川の頬は少し赤い。こんな寒い中、ずっとここで待っていたのか。
メッセージに気付いた時真っ先に確認した受信時刻に、正直もう及川は帰ったと思っていた。ここに来たのは一応の確認のためで、もしも某忠犬の如く待ちぼうけを食らった及川が凍死でもしたら寝覚めが悪いと思ったから。でもまさか、本当に待っているとは。
30分も待ってまで私と帰る必要が何かあるんだろうか。変な気分だ。表面的には普段通りを装っているこの男のちょっとした違和感に気付いてしまったからこそ、余計に胸の内がモヤモヤと気持ち悪い。
「今日、部活は?」
「んー……ちょっとね」
あ、今逃げたな。
何事も無いと笑って、でも逸らされた視線とすり替えられた話題にふと思う。女々しい男だな、本当に。寒空の下、大した防寒対策もなしに、それでも私を待っていた理由は想像するに容易い。そのクセ、いざその時が来ると弱腰になるんだから及川は面倒くさい。世話の焼ける恋人なんて未だかつていたことはないけど、多分きっとこんな感じだ。
「はい」
「?なに?」
「あげる」
寒さに赤く色づいたその手に、ポケットに入っていたカイロを押しつけ、さっさと歩き始める。進行方向は最寄り駅とは真逆。今日は寒いけど、仕方ないから一駅分くらい歩いてやろうか。だって私ばかりが気を遣われていたらフェアじゃない。
定位置の半歩後方。及川が斜め後ろを黙って着いてくるのを気配で感じながら、そっとマフラーに顔を埋めた。