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大量の着信履歴に気が付いたのは、仕事を上がって直ぐの事だった。
今日はどうしても外せない用事があるのだと、オーナーに無理言って普段より早く上がらせて貰い、控え室に駆け込んでから覗いた携帯のディスプレイ。其処に浮かび上がった夥しい数の着信履歴はストーカーも真っ青な具合で、おまけにその全てが非通知であったが為にいよいよ怖くて、思わずひゅっと喉が鳴った。何だこれ。新手のドッキリか? 思い当たる節がないでもないので、どうしたものかと一人呆然としていると、計ったように突然手の中で震えだしたスマホを危うく落としそうになった。
何とか携帯を握り直し、画面に視線を落とせば再び"非通知"の文字。
おいおい、本当にどうすればいいんだ、全く。軽快な音楽でも鳴ってくれれば少しは気が紛れるのだけど、生憎のマナーモード。B級のホラー映画みたいに淡々と震える携帯は確かに気味が悪くて、正直今すぐトイレにでも流したい気分だ。「あー、ポケットから落ちたのに気づかないで流しちゃった!てへぺろ」みたいなファミレスあるあるを故意にしでかして今すぐこの激安スマートフォンを下水道に流してやりたい。そんでもっておニューのセブンが欲しい。
……とまあ、昼のバイトと夜のバイト掛け持ちしてどうにか生計を立てている身分でそんな贅沢を言っても仕方がない。
非通知の表示にビビりながら、二進も三進もいかない現状を打破すべく恐る恐る電話に出た瞬間、
「なまえー!!?」
「え……神楽ちゃん?」
耳を劈くような叫び声で名前を呼んだのは、恐怖への緊張とは裏腹によく聞き慣れた声だった。