友達の存在



夏組の旗揚げ公演は、酷評なんて本当にあったのかと思うほどに面白い舞台だった。終わった後は、気を張っていた分すぐに動き出すことが出来ず、友人とその場でしばらく固まってしまった。

「すごかったね」

どちらからともなく語彙力のない感想を呟く。

「もしチケット取れたら千秋楽も見に行きたいね」

そう言って劇場を出てからは、2人で劇中のどこが笑えただとか、皇天馬はやっぱりかっこいいだとかそんな話で盛り上がった。
幼馴染の演技を間近で観て、やっぱり住む世界が違うと再実感したが私ももうすっかりMANKAIカンパニーのファンになっていた。
こんな素敵な舞台に招待してくれた佐久間くんには、LIMEで改めてお礼をしなくてはとアプリを起動する。


観劇した次の日、私よりも先に教室に来ていた佐久間くんに挨拶をして話しかける。

「本当に舞台って面白いんだね。佐久間くんの所属してる春組公演も観たかったなぁ」

「そう言ってもらえるだけで嬉しいよ!きっと秋、冬の次にまた公演できるようにオレたちも頑張るからさ、その時は観にきて欲しいな」

「うん、楽しみにしてるね」

ホームルームが始まるまで、他愛ない話をして時間を潰す。その時に昨日友人と話していた千秋楽のチケットのことを話すと、嫌な顔ひとつせずに明日持ってくると言ってくれる佐久間くんには本当に頭が上がらない。
自分の力でチケットを用意しようとしないのはずるいかなぁ、と若干負い目を感じながらも、またあの公演を観れることに喜びを感じる。

チケットを用意してもらえるだけで十分なのに、佐久間くんはどこまでいい人なのか 千秋楽の日楽屋に遊びに来てよ、と言った。

楽屋に行くということは恐らく、皇天馬と遭遇してしまうことになる。それに対しては少し抵抗があったけど、彼のせっかくの厚意を無碍にもできずにありがとうとお礼を伝えた。
きっと彼は私のことなんて覚えていないだろうし、存在自体は覚えていたとしても高校3年生の私を見ても気がつくことはないだろうと自分で自分を納得させる。でも楽屋になんて行ったことないし、なに持っていけば良いかなんてわかんないや…と違う方向に思考を落ち着かせ、考えてもわからないことは放っておくことにした。


夏組公演の初日に続き千秋楽の観劇のため、友人と天鵞絨駅で待ち合わせをして劇場に向かう。

「本当に今日楽屋に行っていいって佐久間言ってたんだよね?!はぁ緊張しすぎて頭おかしくなりそう」

「私もまだ本当に行っていいのか信じられないけど、佐久間くんが終わったら案内してくれるみたいだよ」

劇場に到着後は前と同じようにチケットに記された座席に座り、開演を待つ。
開演に伴う注意事項のあと、ブザーが鳴り千秋楽が始まった。