彼のご両親



『なんだよ、何ぼーっとしてんだ、シェヘラザード』

『船乗りじゃない…?船乗りじゃないシンドバットとか、設定間違ってんのか?』

なんだか初日公演とはセリフが違うなぁと思っていたら、隣の友人も 今日アドリブ多くない?と笑いながら観ており、やっぱり間違いじゃなかったんだと感じる。
そのアドリブのどれもが観客の笑い声に変わり、初日よりさらに面白くなった千秋楽に胸が高鳴った。
最後の場面では、シェヘラザードがアリババに向かって、心のこもった感謝の言葉を述べたりと、コメディなのにぐっと込み上げてくるものがあり、涙を流さないように奥歯を噛みしめる。

カーテンコールも終えてスタンディングオベーションで幕を閉じた夏組の千秋楽は、本当に最高で心から観に来て良かったと思えるものであった。


観客がぞろぞろと退館していく流れに乗り、佐久間くんの姿を探す。終わってすぐにLIMEの通知が来ていたため、それを確認すると場所を指定してくれており、その場に向かう。彼を待っている間、中学生くらいの男の子たちが花束を持って中に入っていったり、劇団員のご家族と思われる方たちともすれ違った。


「あら、もしかして名前ちゃん?」

そんな様子をみていた私は、自分の名前を呼ばれる声にバッと振り返ると、そこにはあの皇夫婦が立っていた。
まさか、多忙な2人が観劇に来ているとは思っておらず一瞬言葉に詰まる。

「…お久しぶりです、てんてんパパママ」

「本当に久しぶりねぇ。最近天馬とはあまり会っていないのかしら」

「そうですね…彼も忙しいと思うので、もうずっと連絡も取っていません」

2人のオーラに、ずっと目を合わせて話すこともできずに本当のことを伝える。

「そう…きっと天馬寂しがっているわ。たまには連絡してあげてちょうだいね」

もうずっと関わりもなかったんだ、そんなことを思っているはずがないだろうと思い差し入れと一緒に持っていた花束を握りしめながら、はい、と答えた。

お辞儀をして彼らを見送り、見えなくなったところでどっと汗が吹き出る。
ふぅ…とひと息つくと、ずっと無言で呆然とその場に立っていた友人が、やっと声を発した。

「え、ちょ、待って。色々わかんないんだけどどういう事?!」

皇天馬のファンである友人には大変言いづらいことではあるが、ここまできて嘘をつくわけにもいかず、昔家が近くてよく遊んでいたこと、だけどもうずっと連絡も取っていないし関わりもないことを話した。

「まあ、昔の話ってこと。別に隠してたとかじゃなくてさ、言い訳に聞こえるかもしれないけど、私を通して会えたりサインもらえるわけじゃないから…」

「なんだぁ、皇天馬ともっとお近づきになれるかと思ったじゃん!まぁでも今回は佐久間がスペシャルなことしてくれるし、いっか」

どこまでも優しい友人に、頭を下げて感謝する。それでも笑顔でやめてよ〜、なんて言う友人と、先程の千秋楽のことを話をしていると佐久間くんが私たちを迎えに来てくれた。

「ごめんね、お待たせ」

「佐久間!本当に楽屋行っていいんだね?!皇天馬にサインもらえるかなぁ」

「あはは、天馬くん優しいしきっと心よく書いてくれるよ」

やったーと喜ぶ友人と佐久間くんの3人で楽屋に向かって歩き始める。そんな中私は、彼の両親に会ってから、久しぶりに彼に会うことがすごく怖くなってきてしまった。