会いづらい
もうすぐ楽屋の中に入る、と言うところで意気地のない私は花束と差し入れを友人に持たせて、お手洗いに行くと言ってその場を離れた。
佐久間くんはすごく心配してくれていたけど、楽屋に入る友人を放っておくわけにもいかず、楽屋の中に入っていった。
直前になって、彼に会うのが怖くて逃げた私は、そのまま引き返すわけにもいかず物陰に隠れてため息を吐く。
「はぁ…やっぱり今さら会いに行けないよ」
「誰に会いに行けないの?」
独り言のはずなのに、落ち着いた声で返事があったことに驚いて、勢いよく前を向く。
そこには成人しているであろう、大変お顔の整った人が立っていた。独り言に対する返答と、その人の容姿にびっくりしすぎてなかなか声を出せずにいると、続けて彼が話し始める。
「あ、もしかして咲也の同級生?なに、迷子にでもなっちゃった?」
そう言って親切にも 楽屋ならあそこだよ、と私を楽屋の前まで連れて行ってくれたのだ。
今の私からしたら全然親切な行動ではないのだが、佐久間くんも心配してくれているだろうし意を決して中に入ろうと拳を握る。
「じゃあ俺はこのへんで、おつー」
と言って去ろうとするイケメンを引き止め、一緒に入ってもらうように頼む。何せ今ひとりで入って行ったらみんなの視線はこちらに向いてしまう可能性があるからだ。そんな自殺行為なんてできるはずもない。お願いします、お願いしますと彼に頼み込んで彼の後ろにコソコソ隠れながら楽屋内に入る。
「至さん!名字さんも、大丈夫だった?」
「うわインチキエリートがついに未成年に手を出した」
「そこ、勝手に俺を犯罪者にしない。咲也の同級生が迷ってたみたいだから、連れてきただけ」
ちらりと中を見ると、私の友人は皇天馬に猛烈アタックをしていたため、彼の視線はこちらに向かない。
イタルさんと呼ばれた彼に、ありがとうございますとお礼を言いながら佐久間くんに近づく。
「えー!なに、サクサクの彼女ー?!やばたん!とりま写メ撮ろ?」
アラジン役の彼の勢いに付いていけず、ポカンとしているとさらに追い打ちをかけられあほ面のままインカメで写メを撮られる。
「俺、三好一成!名前なんていうの〜?あ、ねえ!LIME交換しよ?」
「えっと、名字名前です。佐久間くんは彼氏じゃなくて同級生ですよ、えー、三好さん」
とりあえず冷静になって挨拶をし、千秋楽で素晴らしいものを見せてもらったお礼を告げた。
「千秋楽、おつかれさまでした。本当に、本当に面白くて楽しい舞台でした。また夏組公演やってくれるのを楽しみにしてます」
隣で聞いていた佐久間くんも笑顔で頷いてくれて、緊張しながらも伝えたかったことを言えて良かったとひと安心する。
「そう言ってもらえるとバイブス鬼アゲ!ちな、次からは三好さんじゃなくてかずくんって呼んで!」
三好さん、もといかずくんの他にもシェヘラザード役の瑠璃川くんやシンドバッド役の向坂くんも、笑顔でありがとうと言ってくれた。
肝心の皇天馬は、こちらに目を向けておらず友人にサインを贈っているところであった。
ちらりとそちらを気にかけている私に気づいたイタルさんは、なにを思ったのか皇天馬に向かって
「おーい、天馬。お前に会いたくないって子がいるみたいだよ」
と言ってのけたのだ。