難しい想い
「天馬に会いたくないって子がいるみたいだよ」
だなんて、そんなことを言ったイタルさんをバッと見る。するとニヤリと笑った彼は、小さな声で私の図星をついてきた。
「さっき言ってた、今さら会えない人って天馬のことだよね」
イタルさんの発言に、はぁ?とこちらを向いた皇天馬は、私の姿をその目に映すとギョッと、目を見開いた。
「名前…?」
名前を呼ばれた瞬間、私のことをまだ覚えていてくれたという嬉しさはあったけれど、なぜか私は逃げるように楽屋の扉を開けた。
「あ、おい!」
咄嗟に楽屋から逃げてしまった私は、そのまま早歩きで外へと続く扉に向かう。別に追いかけてほしくて逃げたわけではない、何なら何で逃げたのかを自分がいちばん知りたいくらいなのだ。
少し進んだところで、私の後を追うように楽屋の扉が開く音が聞こえて、急いで外に出る。すぐにぐっと進行方向とは逆に腕を引かれ、足を止めた。
「ちょっと待った」
そんな逃げるほど嫌だった?と若干の申し訳なさを滲ませた彼に腕を掴まれたまま、わざわざこんなイケメンにめんどくさい女の相手をさせて悪いな、と場違いなことを考える。
「イケメンさん…わざわざ追ってきてくれたんですか」
「まあ…咲也とか幸の責めるような視線がすごかったから。てゆうかイケメンさんって…俺は茅ヶ崎至、咲也と同じ春組だよ」
私の呼び方にふっと笑いながら、そう名乗ってくれた。
「先程も言いましたが名字名前です。佐久間くんのクラスメイトです」
「で、天馬の元カノとかなの?」
まあ気になっているのはそこだろうとは思っていたけど、まさかそんなに直球で聞かれるとは思っておらず、冷静に違います、と答えた。
じゃあなんで逃げるんだっていう目で見てくる茅ヶ崎さんに、友人に話した時のように伝える。ただの幼馴染、しかも連絡も取ってないような全然親しくない幼馴染。
自分で言っていて虚しくなるが、事実そうなのだ。だから彼に会った時、普通に久しぶりって言えれば良かったのだ。
そうはわかっていてもできないのは、私が彼に好意を抱いているからなのだろう。
もし彼が私のことを覚えていなかったら、もし昔遊んでたくらいで楽屋にまでくる迷惑なやつだと思われたら、そう考えはじめると怖くてたまらないのだ。
「じゃあ、名前ちゃんは天馬のことがずっと好きだったんだ?」
茅ヶ崎さんにそう言われて、肯定も否定もできなかった。