謝罪に赴く



おはよう〜と間延びした挨拶をしながら教室の扉を開けた。昨日の逃亡劇は、お風呂に浸かってもどれだけ長く寝ても忘れられなくて、はやく謝りにいかなくては…と胃がキリキリするのを何とか耐える。
佐久間くんには朝イチで謝ろうと意気込んで、少し早めに家を出たのだが彼はまだ到着しておらず、とりあえず自席に荷物を置くことにした。
彼が来るまでのしばらくの間、キョロキョロと窓から見える校庭の方を見たりするが、なかなか彼は現れず、もうすぐホームルームが始まるという時間になってやっと登校したのだ。

「名字さん、おはよう」

彼の笑顔にとりあえず安心しながらも、挨拶と謝罪をする。

「おはよう、佐久間くん。きのうは謝りもしないで帰ってごめんね。」

「そんな、気にしないで。それよりさ、名字さんと天馬くんって幼馴染だったんだね。オレびっくりしちゃったよ」

きっと茅ヶ崎さんがそう言ったんだろう、と思って彼に 茅ヶ崎さん?と少し苦笑い気味に聞くと、彼の口からは想像していなかった人物の名前が挙がった。

「昨日の夜、天馬くんから相談されたんだ」

まさか皇天馬の名前が上がるとも思っていなかったが、さらに彼が佐久間くんに相談をしたという内容に驚いた。きっと座長としての、演劇関係での相談をしたのだろうと、少しざわつく心を落ち着かせながら彼の言葉を待つ。

「至さんが、また今度遊びに来るんじゃないって言ってたんだけど、もし名字さんが良かったらさ、今日の放課後遊びに来ない?」

彼は続けて、謝りに来て欲しいとかじゃなくて、今のまま時間経つともっと気まずくなっちゃうんじゃないかって思ったんだ、と彼の優しさが詰まった言葉をくれた。

「みんな迷惑じゃないかな…」

「そんなことないよ!みんなまた遊びに来てって言ってたから心配しなくて大丈夫だよ」

どこまでも優しい佐久間くんの言葉に勇気をもらって、今日の放課後に寮にお邪魔することに決まったため、彼はその旨を監督に連絡してくれる。

緊張することやあまり乗り気でないイベントというのは案外すぐにその時間になってしまうもので、いつも長く感じる授業も今日はすごく短く感じた。そうこうしている間に放課後になって、佐久間くんと一緒に校門をくぐる。

天鵞絨町まで移動する最中、手ぶらでお邪魔もできないと思い、お茶菓子を購入し、寮を目指す。
道中は佐久間くんと会話することで精神統一を図り、皇天馬に会ったら何を言おうか頭をフル回転させた。

「ここがオレ達の住んでいる寮だよ」

そう言った彼の言葉に立ち止まり、寮を見上げた。ここまで来たらもう覚悟を決めて、彼に続いて寮にお邪魔させてもらう。
佐久間くんは、監督に言ってくる!と言い私を置いて監督さんの元に行ってしまった為、心細いと思いながらも彼が戻ってくるのを待つ。

「ただいま」

ガチャリと玄関の開く音がして、ビクッと過剰に反応してしまう。そのまま談話室の扉まで開く気配がして、お邪魔してます、と思っていたより小さな声で挨拶をした。

「あれ、名前じゃん。おつー」

とりあえず最初に遭遇したのが茅ヶ崎さんで良かったと、社会人の割に帰ってくるの早いなと思い、ひと息つく。
そう思っていると、佐久間くんが監督さんを連れてきてくれて、お茶菓子を渡しながら挨拶を交わし、劇団員が帰ってくるまで談話室にいさせてもらうことに承諾を得た。