むかしから



「監督さん、綺麗なひとだね」

そう佐久間くんに告げると、照れ臭そうに自慢の監督なんだと話してくれた。
一番最初に会った茅ヶ崎さんは、帰ってきてすぐに自室にこもってしまったため、談話室にはまだ私と佐久間くんしかいない。

「天馬くん早く帰ってくるといいね」

そういう彼は嫌味ひとつない笑顔で、私がこの寮にいても気まずくならないようにずっとそばにいてくれている。
皇天馬が帰ってくるのを待つ間に、春組夏組のみんながぱらぱらと帰って来て、その度に昨日の謝罪をしていた。

「あんたも大変だね。あの俺様なポンコツ役者の幼馴染だなんて」

「まあしばらくは全く関わってないから、幼馴染っていうのも名ばかりだけどね」

そう言って苦笑いをする。幸くんは男の子なのにすごく可愛くて、見ていてとても癒される。
お邪魔している身で寛ぎすぎている間は否めないが、椋くんは少女漫画の趣味が同じですごく話が盛り上がったり、かずくんは相変わらずのコミュニケーション力で会話には困らない。三角さんもてんまとちゃんとお話しできますように、と三角定規を貸してくれた。
本当に温かい、いい人たちに囲まれて天馬は幸せだなと感じる。だけど、しばらく待っても天馬は帰ってこず、自分に会いたくないのではないかと不安になってくる。

そんな私の様子を見てか、幸くんが

「あのポンコツ、またあんたに拒否られるのが怖いんじゃない」

と言って場の空気を笑いに変えてくれた。

そうは言ってもなかなか遅い時間になって来た頃、そろそろ時間も時間だし、と夜ご飯に監督のすごく美味しいカレーをご馳走になった。あまり遅くなっても寮のみんなや自分の家族にも心配をかけてしまうと思い、そろそろお暇しますと声をかける。
佐久間くんは少し残念そうに、駅まで送っていくよと言ってくれたが、さすがにそこまで迷惑はかけられないため、また学校でね、と伝える。

せっかく佐久間くんが寮にお邪魔させてくれたのに、天馬に会えなかったのは残念だったけど、またいつかこういう機会をもらおうと考え、玄関の扉を押した。

自分の押したタイミングで、勢いよく外側から扉を引かれる感覚に、ぐっと体を持っていかれる。
わっ、と声を軽くあげると、筋肉質な体とぶつかりすぐに顔を上げた。

「なっ、名前…!」

心の準備をしていない、こうもタイミングの悪い時に彼に会ってしまうのは何故なんだろうと考えていると、以前茅ヶ崎さんに掴まれたような感覚とは違う、力加減のわからないような力で手首を掴まれる。

「て、天馬…くん」

私の発言に手首を掴む力が強くなるのを感じるが、何かをいう暇もなく寮内に引っ張り込まれる。そのままの勢いでズカズカと階段を上り、201と書かれた部屋の前で立ち止まった。突然止まるものだから、勢いを殺せずにまた彼の体にぶつかってしまうが、それを気にした素振りも見せずに部屋の中に入るよう促される。

昔からこの、破天荒で俺様な感じは変わってないなぁと思いながらも、彼の部屋に歩みを進めた。