穢れない瞳



「は、おい名前…本当にそうなのかよ…万里さんと、」

本気で冗談を信じてしまった天馬が、極めて深刻な表情で聞いてくる。
その様子をみて嘘をついた本人は、面白そうにお腹を抱えて笑っていた。

「ちょっと万里、あんたからも冗談だって言ってよ。本当に違うからね、万里が勝手に言っただけ」

「ひー、天馬お前まじ面白ぇ。久しぶりにこんな笑ったわ」

そもそも私と万里は、たまたま同じ高校になったただの同級生である。
高校1.2年の時に同じクラスになり、何だかんだ座席が近くになることが多かった私は、担任からこの不良の面倒を見せられていただけなのだ。
そのことで、クラスの中でもある程度遠慮なく話すことができるようになったという、所謂腐れ縁。
万里との会話は気を遣わない分すごく楽ではあるけど、話していると女子からの視線がすごかったりと、少しの苦手意識を抱いてしまう。

「てゆうかお前ら、なに、デート?付き合ってんの?」

そこでふと感じたのであろう疑問を投げかけられた。今日は否定することが多いなぁと思いながら、幼馴染であることを明かす。
天馬と万里のつながりに関してはこちから質問すると、秋組として劇団に入団したことを説明された。

そこで万里は、じゃあ至さんの言っていた天馬の幼馴染は名前のことだったのかとひとり納得したように頷く。すると、

「はぁ〜なるほど、そういうことな」

と言ってニヤリと笑った彼のことはよくわからないけど、何やらよくない空気を感じた。
その後二言三言交わしてから、万里とはまた学校でと言って別れる。

天馬は先ほどの冗談が本当でないことを再確認してきたため、違うよと答えると心底安心した顔をしていた。
この歳になったらそう言った話も出てくる頃だとは思うが、芸能活動で多忙な彼にはきっと、無縁な話なのだろう。

なんとなく、という理由で私に会いに来てくれた彼とはなるべく目立たない道を通りながら、あまり関わらなくなっていた期間の話をする。
中でも夏組千秋楽の日、両親に認めてもらえたことがすごく彼の胸の内を占めていたらしく、そのことをキラキラとした穢れのない瞳で話してくれた。

お互い話が盛り上がって来たところで、秋に差し掛かったこの時期にブレザーを着ずに外にずっといたせいか、っくしゅん、とくしゃみをしてしまう。
ごめん、と謝りながら鼻を啜る。少し肌寒い感じがして手を擦って暖をとる。
すると天馬はおもむろに私の手を握って、

「悪りぃ」

と私の体を引っ張り逞しい体で包み込んだ。