変わらぬ家
ちょい待ち、と万里に声をかけられて振り返る。彼は誰かに電話をしている様で、それが終わるまでもう一度ソファに座って待つことにした。
数分して電話が終わった彼は私から伝票を奪い取り、フロントの方へ向かっていく。置いていかれないよう私も後ろからついていき、財布を出す。
「ここは俺が払うからよ、今日中に天馬にLIME返してやれよ」
うっ、と言葉に詰まるがそれとこれとは別だと、お金を渡そうとするがなかなか受け取ってくれないため、今度何かご馳走するという約束を無理矢理こじつけ、カラオケ店から退店する。
「何から何までありがとう」
「いいってことよ、それより約束したかんな」
LIMEの件を念押しされながら大通りに出る。万里はまっすぐに、ある車の所まで向かっていき助手席の扉を開いた。
「至さん、こいつのこと送ってやって欲しいんスけど」
そう言って彼は、私に助手席に座るよう促す。万里は、と思って彼を見るがゲーセン寄って帰るからと、すぐに引き返して行ってしまった。
恐る恐る助手席に乗り込み、茅ヶ崎さんに謝罪とお礼を伝える。
「すいません、本当に大丈夫なんですか?わたし電車で帰りますけど…」
「まぁ今日特にイベも限定クエもないから、いいよ」
なんだか難しいことを話しているため頭に疑問符を浮かべながらも、送ってくれるということにお礼を言う。
ある程度家が近くなったところで、この辺りにお願いします、と声をかけて車を停めてもらう。
ありがとうございます、と茅ヶ崎さんにもう一度伝え、頭を下げた。
「じゃあね名前、おやすみ」
最後までスマートな茅ヶ崎さんを見送り、あと少しとなった家路につく。
万里との約束を果たそうと、さっそくスマホのアプリを起動させトーク画面を開いた。なんて返事をするのが良いのかを、ひとりうんうんと悩みながら歩いているとあっという間に自宅が見えてくる。
結局家の前に来るまで返事の内容を考えることは出来ず、一度スマホを仕舞う。家の前の、なんだか見覚えのあるシルエットに目を凝らしながら近づくと、
「え、なんで…」
そこには、私服姿の天馬が立っていたのだ。
なんでここにいるのか疑問を抱くが、こんな街中に彼がいては周りに驚かれてしまうし、外はもう寒い時期であるからと、とりあえず家に連れ込む。
おかえり〜と間延びした挨拶をした親に軽く返事をして、彼の腕を自室まで引いていく。なんだか以前とは逆の立場になってしまっているなぁと思いつつも、部屋の扉を閉めて改めて対峙する。
まず、どうしてこんなところにいたのかを彼に問うと、
「…お前が、名前が全く連絡寄こさないからだろ」
と私を責めるような目を向けられた。
それに対して、私は言い訳のような返事をする。
「それは…今日帰ったら送ろうと思ってたの」
それに少し驚いたような彼は、それってあの返事のことか、と聞いてきた。
黙って頷く私に、
「なあ、それ今聞いても…」
と、語尾がだんだん尻すぼみになっていく彼。普段ならもっと俺様感を出して、自信に満ちた顔をすると思っていたため、普通の思春期男子なんだなぁと、場違いなことを考えてしまう。
そんな彼と距離を詰め、恐る恐る手を彼の背中に回す。
ビクッと過剰に反応する天馬に、ずっと思っていた想いを言葉にした。