ひとりだけ
青山くんの煌びやかなビームが真横を通過していって、それに追いつこうと必死になって走る。しかしあと一歩、というところで彼はもう一度個性を使った。そのスピードに私の足は追いつくことが出来ず、青山くんの次にゴールインとなった。
「ハァ…青山くんに負けちゃった」
「僕の眩さには誰も勝てないさ」
お腹を抑えながら言う彼には苦笑いを返し、まだ予選通過人数は知らされていないため全員がゴールするのを待つ。ざっと数えた感じだと40位過ぎくらいか、微妙だな…そう思っているうちに全員ゴールしたようで結果が発表される。
予選通過は上位42名!そう言ったミッドナイト先生の言葉に、頭を鈍器で殴られた様な衝撃を感じた。43位、その横に表示された自分の名前を見て絶望する。この順位では本選にすら出場できないのだ。
「みんな本選に行けるんだ…」
予選敗退、それもとても悔しいが、それだけじゃない。クラスメイトみんなが本選に出場するのに、自分だけ取り残されている事実に目の前が真っ白になる。
近くにいた青山くんがこちらの様子を窺うように見ていることに気がつくが、今は自分のことで精一杯すぎて声をかけることはできなかった。
この結果に込み上げるものを何とか耐え、第二種目の準備を始めた会場からふらりと離れた。
ミッドナイト先生はまだ見せ場は用意してあると言っていたが、なんの活躍もできない、せっかくのチャンスを水に流してしまったことにしばらく控室から動けないでいた。
「私の個性、本当はこういう時に使ってこそなんだろうなぁ」
悔しさのあまり、そんな卑怯なことを考える。私が1人でこの体育祭を繰り返しやり直そうが、誰も気がつくものはいないのだ。そしたら、もしかしたら次は青山くんにも、途中で話した上鳴くんにも負けないかもしれない、そう思った。
それでも一応はヒーローを目指してこの学校に入ったからには、正々堂々といようと、よっぽどのことがない限り使わないと決めているのだ。しかし、それを辞めてしまいたくなるほど、今回の結果は悔しいものであった。
最後、青山くんに抜かれていなければだなんて、無意味なことをもう何十回も考えながら、私以外のクラスメイト全員が出場している騎馬戦を見に控室を出る。
みんな素敵な個性でいいなぁ、ずるい。私だってもっと、といつまでもネガティヴな思考がぐるぐると渦巻いていた。
しばらくして騎馬戦に意識を集中させると、丁度緑谷くんと轟くんが対峙しているところであった。初めて見る轟くんの左側、炎を纏った腕を緑谷くんが空を切るように敬遠する。今日何度目かわからないが、強い個性が羨ましくなって涙が溢れ出そうになった。
白熱したバトルも、タイムアップの声で終了となり順位が発表される。第三種目に進むことのできる生徒を見ると、やはりA組が多くて目を細めた。
騎馬戦が終わってお昼休憩となり、観客も生徒もぞろぞろと移動を始める。一足先に控室に到着していた私は、今の状態でみんなに会うのが気まずくなってしまい、なるべく誰にも会わないように道を選んで会場の外に続く道を辿った。
しばらく歩いていると曲がり角の手前に誰かが立っているのが目に入る。それでもふらふらとそちらに歩いていくと、その人影が爆豪であることに気がついた。少し動揺しながらも、その心情を悟られないように不自然にならない程度に下を見ながら歩みを進める。
もう少しで爆豪くんの前を通る、という時に突然無遠慮に腕を掴まれ足を止めた。
「…な…?!」
冷静を保って 何?と声をかけるつもりが、彼の手で口を塞がれてしまい驚きで固まる。
目をぱちくりさせて何故こんなことをするのかと彼を見るが、爆豪くんの意識は曲がり角の先に向いており私の欲しい答えは返してくれなかった。しかし、すぐにその先で話している聞き覚えのある二人の声が聞こえる。何やら重たい家庭の事情を話している轟くんの声と、それに続いて強い意志を持った緑谷くんの声が聞こえて息を飲む。
少し声が遠ざかったと思うと、ちらりと爆豪くんがそちらを盗み見た。どうやら二人の密会は終わったようで、私の口を塞いでいた手も離れていく。
「爆豪くん、盗み聞きは良くないんじゃ…」
口が自由になったことで一番に思ったことを彼に伝える。
「あ?たまたま聞こえちまっただけだわモブが」
つーかてめェ、と続けた彼に、ドキッとして逃げようとするが、再度腕を掴まれてしまう。
「クラスで一人脱落して気まずくて逃げてきたとか言わねーよなぁ?」
一発で図星を突かれてしまい、だから聞きたくなかったんだと項垂れる。彼の方を見れなくて、でも沈黙も嫌でそんなことないよと話す。
それに対して鼻で笑った彼に腕を離され、ついに我慢していたものが頬を伝った。