不器用な手
私の涙に気がついた彼は特に慰めの言葉をくれるわけでもなく、さらに私に追い討ちをかけるようなことを言った。
「前みたいに今日をやり直してみろや。そしたら勝てるかもしんねぇんじゃねーの」
半分笑ったような、いじめっ子の雰囲気しかない彼の発言に頭に血がのぼる。それでも感情に任せて行動しないように、きっと彼を睨みつけた。
「私だって…弱いけど、ヒーローになりたいって思ってる。だからそんな卑怯なことはしないって決めてるの」
泣きながらも、自分の意志をはっきりと彼に伝える。こんなこと言って、爆破でもされたらどうしようと思うが、彼はいじめっ子の顔をやめて言った。
「そんなに泣くほど悔しいんなら、個性コントロールできるようにしてみろや」
彼なりの優しさなのか、最後は不器用に頭をぐしゃぐしゃ撫でて、その場を去ってしまった。彼の背中が見えなくなるまでぼんやりと廊下を眺めるが、張り詰めていた空気にどっと疲れが押し寄せて来て、廊下の壁に背を預けてその場に座り込む。
「個性をコントロール、か」
それができていれば苦労はしないのだが、生憎私の個性と同じだった父は幼い頃に亡くしてしまっているし、個性の詳細を母は知らないと言うのだ。助言者がいないため、ここまでずるずると制御できずにきてしまっているが、もうそうも言っていられない。
エンドレスって言っても私の場合は七日間だけど、うまく制御できれば一日だけに短縮できるかもしれないし、もしかしたらもっと短くもできるのかも…と緑谷くんよろしくブツブツと独り言を洩らす。
気がつくとかなり時間が経過しており、慌てて控室への道を戻る。控室の扉を開けると、私に気づいた女子生徒がこちらに寄ってくる。
「名字さん、どちらに行ってましたの?先ほど相澤先生からの言伝だと、この服に着替えて応援合戦しなければならないと峰田さん達が」
この服、と言ったと同時にチアリーダーの衣装を渡されて思わず は?と素の声が出た。
「聞いてないけど…本当に着るの?これ?」
八百万さんの最後の言葉にとても嫌な感じがしたが、もうみんな着替えているとのことで私もいそいそと着替え始める。思ったより多いお腹や脚の露出に恥ずかしくなるが、その格好のままレクリエーションが行われる会場へと向かった。
そこには私たち以外体操服で集合しており、峰田くんと上鳴くんに騙されていたことに気がついてため息をつく。男子ってこういうの好きだなぁと思うが、クラスの男子を見てみてやっぱりこういうことするのはあの二人だけしかいないやと思い直した。
「みんな可愛いよ!せっかくだし楽しんじゃお!?」
溌剌とした声で葉隠さんがそう言い、それもそうだとみんなでレクリエーションを盛り上げる。着替える間もなく借り物競走の順番が回ってきたため、この格好のままスタートラインに立つ。
「A組いろんな意味で目立ってるよな」
男勝りなB組の委員長と横に並んでスタートの合図を待った。一つ前のメンバーが全員ゴールするとすぐにスタートの合図がかかり、走ってお題の紙を拾いに行く。
自分のレーン上にあるものを拾って裏返すと、まあこの競技にはありきたりな内容が記されていた。
そのお題に合った人物を探すため、キョロキョロと辺りを見渡す。
隣にいた拳藤さんは、同じクラスの物間くんを両手で掴んでゴールに向かって走っており、私たちには人物のお題が回ってきているのだと悟る。
「あ、おーい!一緒にゴールして欲しいんですけど…!」
周りを見るとお題に合った人物を見つけたため、聞こえるように声をかけて一緒に来てもらうように頼んだ。
「すいません、怪我もしてるし遠いのに」
そう言って相澤先生に声をかける。先生の体に気を遣って、歩きながらゴールを目指す。相澤先生には申し訳ないが、お題が"担任の先生"であれば私には彼しかいないのだ。結局この借り物競走では、最下位でのゴールとなってしまったが、十分レクリエーションを楽しむことができた。
「思ったより元気そうだな。予選は残念だったが、これを糧に次からも頑張れよ」
ゴールしてから再度先生にお礼を言うと、気にかけてくれていたのかそう言われた。こんな生徒は除籍処分とか言われなくて良かった…と心の底から安心し、だけどもう負けてられないと少し痛いくらいに拳を握った。