お疲れさま
楽しいレクリエーションも終了し、いよいよ決勝トーナメント。私に出番はないため、クラスメイトと一緒に座席で試合を見る。
最初の試合、緑谷くん対普通科の心操くん。心操くんの個性についてはよく分からないが、ここまで勝ち残ったと言うことはかなりの強者なのだろう。
そうして始まった第一試合、開始早々彼の挑発に乗ってしまった緑谷くんは動きを止めてしまい、尾白くんの嘆いたような声が近くで聞こえる。
「操る系の個性かぁ」
ぼそりと呟いた砂藤くんの声に無言で頷く。彼に操られるまま、ズンズンと場外に進む緑谷くんを、ヒヤヒヤしながら見守る。しかし彼は、場外ギリギリの時に個性を暴発させて、なんとかその場を凌いだのだ。
「俺はこんな個性のおかげでスタートから遅れちまったよ」
恵まれた人間にはわからないだろうと彼は言った。私も、そう思う。実際にクラスみんなの個性や実力を間近で見て、絶対に敵わないしどんどん差が開いていくのを感じるのだ。
またネガティブな方に思考を持って行っているうちに、心操くんの場外で勝敗が決まった。
リカバリーガールの元へ行った後なのか、腕に包帯を巻いた緑谷くんが座席に戻ってくる。
「緑谷くんお疲れさま、怪我は大丈夫だった?」
「はっえと、その名字さん…!だ、大丈夫!」
それににこりと笑って、よかったと返すと今度は彼から話を振ってきた。
「し、心操くんの個性は洗脳で操るような個性だったけど、そういえば名字さんも操る系の個性だよね…?」
今はなんとなく聞かれたくなかった話題に、言葉に詰まる。しかし、無言でいて迷惑もかけられないと声を発する。
「一応、ね。でも心操くん程使えるものでもないし本当ただの没個性なんだけどね」
少し自虐しすぎた感は否めないが、事実そうであるためそのままを伝えた。私の返答に、彼は少し顔をしかめて続けた。
「そんなことない!時間が操れるなんてすごいよ!僕が言えることじゃないけど、きっと個性のコントロールがもっとうまくいったら数分先のことも読んでしまうような、そんな強い個性だと僕は思うよ」
まさかそんな事を言われると思っておらず、ぽかんと口をだらしなく開けてかたまる。私のその様子に彼は、変なこと言ってごめん!僕の勝手な考えで…!と、激しい身振り手振りでそう言った。彼の動きにふふっと笑ってしまいながらも、感謝の言葉を伝える。
「私、個性の制御全然できないし、これからどうして使っていけばいいかも見えてなかったの。緑谷くんが言ってくれた事をヒントにして、コントロールできるようにがんばってみるね、ありがとう」
緑谷くんとのやりとりを終え、再び会場に視線を向ける。トーナメントはどんどん進んでおり、あっという間にベスト8が決まっていた。
ここまで勝ち残ったみんなの試合を見ながら、先ほど緑谷くんに言われた事を思い出す。時間を操れる、と言われるとぱっと浮かぶのは時を止めたり、時間を戻したりというもの。私の場合は戻す方が主であるため、そっち方面で応用を効かせたいなぁと頭を働かせる。時間を戻すのが一日単位で、しかもそれを七日間も繰り返さなくていいのなら、確かに先の読めたような行動ができてすごく有用であると思う。
そう考えはするが、なかなかどうやれば良いのかが難しいと、ひとり悩みはじめた。
そんな考え事をしながら、だけどちゃんと試合を見てやっぱりこうなったんだと思う。
選手宣誓で言ったことをちゃんとやり遂げた爆豪くんに、素直にすごいなぁと感じる。誰もができることではないし、本人は納得していないけど苦笑いと一緒に拍手を送った。
「みなさんご唱和下さい!せーの!」
「プルス、ウルトラー!」
オールマイトのお疲れ様でしたの声に突っ込みながら、さらに向こうを見据えたかけ声で、私たちの最初の雄英体育祭は幕を閉じた。