なんで私が



見覚えのある敵達に、咄嗟に扉を閉じて人通りのあるところまで戻ろうと足を踏み出す。しかし、すぐにモヤモヤしたワープゲートから敵の手が伸びてきて私の首元を4本の指で掴んだ。

「おいおい、挨拶もなしに帰るなよ」

首を掴まれて動けなくなり、なんでここに敵が、どうしよう、殺される、と私の頭に恐怖が湧きあがる。
やばい、と思って個性を発動しようとするが、私の様子を見て敵の反対の手が動いた。

「個性使うのはなしだぜ?」

そう言って、奴は私の右腕を崩した。皮膚がボロボロと崩れていくあまりの痛さに、力が抜けてその場に座り込む。腕を抑えて敵を睨みつけるが、死柄木は飄々とこちらを見るのみで追い討ちをかけてくる様子はない。

「なにがしたいの…」

殺すわけでもなく、個性にしたって特に利用価値のない私に用なんてないはずなのに、とそんな漠然とした疑問を彼に投げかける。

「落ち込んでるお前を慰めにきてやったんだよ、なあ黒霧?」

とんでもなくふざけたことを言った死柄木に、黒霧と呼ばれたモヤモヤが言葉を付け足す。

「あなたには我々のため、個性を使えるようになって頂こうと思いまして」

我々のためと言った敵の本意が読めなくて、頭に疑問符を浮かべる。

「俺ら回復キャラいないんだよ。お前時間戻せんだろ?その個性使ってその怪我治してみろよ」

「でも私、個性使うと今日をやり直すことになるけど」

敵相手に下手に出る必要もないと考え、いつも通りの態度を繕って私の個性を伝えた。

「だからそれを一部分とかに集中させてやってみろって言ってんの。雄英だろ?頭使えよ」

馬鹿にされていることに腹が立つが、一部分だけ時間を戻す、という言葉に思考を巡らせる。今までそんなことは考えたこともなかったが、確かに決まったところだけの時間を戻すことができたとしたら、回復することもできるのかと、やけに納得してしまう。

死柄木に促され、集中しながら崩れた右腕に左手を当てて個性を発動する。範囲を限定するのと戻しすぎないのを意識することで、戻したと思ってもなかなか崩れた部分が戻らずに困惑する。

「思ったより難しいなぁ」

独り言をこぼしながら、痛みを感じなくなってきた右腕を戻そうと再び個性を使用した。それでも思った様にいかず、何度かやってみた後にひとまず個性の使いすぎによる疲労を回復しようとひと息つく。

「いっ…!」

「もっと必死にやってみろよ」

ふと腕が伸びてきたと思うと、また、次は私の左足首を崩した。休みすら与えてくれない彼と、足の痛みに涙が溜まる。

「死柄木弔!あまり傷つけては…!」

黒霧の説得も聞かず、さっさとしろと目で訴えてくる死柄木。また崩されるのではないかという恐怖と、個性が使いこなせない焦りで目眩がする。

「これだから雄英で置いて行かれんだよ」

私のコンプレックスを遠慮なく抉ってくる彼を意味もなく睨む。それでも個性を使い続けて疲労が溜まった私は、痛みも忘れてその場に倒れこんだ。


ふと気がついた時、私は事務所内のソファで横になっていた。 手をついて起き上がるが、まだ回復できていない右腕を使ってしまい痛みに顔を歪める。ブランケットがかかっているのは、きっと黒霧がやってくれたのだろう。
ぐるりと辺りを見渡しても二人の姿が見えず、とりあえず休んで回復したため腕と足を治すために個性の練習を始めた。
この時に雄英に連絡をしたり、 助けを呼びに行ったりとすれば良かったのだが、個性のコントロールに思考が向いてしまいそこまで頭が回らなかったと後で気がついて後悔をした。
そうして職場体験一日目はこの奇妙な空間で終わりを迎えたのだ。