言ってない



職場体験二日目。夢中になって個性のコントロールができるように練習をする。今までずっと悩んでいた個性に、不本意ではあるが敵からヒントをもらえたのだ。この機会に習得して、少しでも役に立つような、没個性と言われないようなものにしたいと意気込んだ。

昨日私が起きた後、わりとすぐにワープゲートを介して戻ってきた死柄木には、まだ使えないのかと散々文句を言われたが、今までできなかったことがそんなすぐにできるかと言い合いになった。
今日もまた、私の個性がうまく使えないのを見てイライラしている様子が見てとれる。この二日間でわかったことは、死柄木の個性は五本の指で触れないと発動しないこととイライラしている時は首元を引っ掻くということくらいだ。

そんな今日、夕方にどこかへ消えていった彼らをちらりと見て個性の特訓に励む。
少しして、肩に大きな傷を作った死柄木だけが単独で戻って来た。それにどうしたんだと思うが、彼が敵ということを思い出して気にしないようにする。

「なあおい、名前チャン。俺のこの肩治してくれよ」

「…」

できないことを伝えるとまた言い合いになる気がして、沈黙を通す。それを見てため息をついた彼は、どかっとソファに腰かけた。

「ヒーロー殺しと会ってた」

そう言った彼の言葉に振り返る。ヒーロー殺しといえば、先日飯田くんのお兄さんであるインゲニウムが倒されたと報道を見たばかりだ。
そんなヒーロー殺しと、敵連合である死柄木が会っていた理由を考えてみてぞっとした。もしその二人が結託してしまったら、そんなことを考えるが彼の肩の傷をみてそれはないかと考え直す。
死柄木の言ったことに対してなんと返せば良いのかわからず、黙って個性の特訓を再開させた。まだ筋層の見えている右腕に左手を当てて個性を発動する。
今までは特に目に見えた変化は感じられず、痛みが軽減する程度であったが今回は違った。昨日死柄木に崩された右腕は、音もなく傷ひとつない今までの腕に戻ったのだ。

「できた…!」

やっとのことで完成した、一部分だけ時間を戻すという個性に、嬉しくてついはしゃいでしまう。

「ようこそ、敵連合へ」

私の発言にニヤリと笑った死柄木は、そのままの表情でそう言った。それに対して真顔に戻って、は?と素っ頓狂な声をあげる。
待て待て、私は自分のために個性の特訓はしたが敵のためにしていた訳ではないし、仲間になるだなんて言っていない。

「待って、私あなたの仲間になんてならないよ」

「は?ただでさえヒーロー殺しにイライラしてんだ、これ以上させないでくれよ」

ボリボリと首元を引っ掻き始めた彼の凄まじい殺気に、背が粟立つのを感じた。
彼の苛立った様子に、また崩されるのではないかと後ずさりをする。

「はは、そんなにびびるなよ。とりあえずさ、この肩治して欲しいだけだって」

先ほどの殺気が嘘のように、わざとらしく両腕をあげてこちらに近づいた彼の、傷ついた肩に手を伸ばす。
自分の腕で発動した時にたまたま成功しただけかとも思ったが、彼の肩に触れたらぽんっと音が聞こえそうな程あっさりと傷が元に戻った。
それを見て、やっぱり欲しいなと呟いた彼は、犯罪者らしいことを言い始めた。

「このまま犯せば仲間になってくれるかな?」

その発言に肩に触れていた手をばっと離す。しかしその手を掴まれてしまい、勢いのままソファに押し倒される。

「ちょっ、待って…!」

「はは、冗談だって。怖いなぁ女子高生」

必死に抵抗するとすんなり離れた死柄木は、へらへら笑いながらまた両腕をあげた。それを見て自分を守るように両腕を体に回して距離をとる。
するとタイミングよく黒霧がワープゲートから現れて、死柄木に何かを耳打ちし二人して闇の中へ消えて行った。

「なんだったんだ」

安心した途端に力が抜け、へなへなとへたり込む。そこではっと、今逃げるしかないと気がつき扉へ足を向けた。