逃げてきた



持ってきた荷物を全て持って、事務所の扉を勢いよく開けて外に出る。たった一日ぶりの外の空気はやけに落ち着いて、そそくさと駅までの道を辿った。

駅に着いてすぐに雄英高校方面の電車に乗り込む。
電車に揺られながら、この辺りで保須市を横切るなぁと考えて外を見ると、夜なのに明るく燃えているような光に目を取られて立ち上がる。
まさかアイツらじゃ、と可能性の高い予想を頭に浮かべ、ヒーロー志望としても見逃せずに事件の起きている保須で途中下車した。

現時刻を確認するためにスマートフォンを取り出し、画面を明るくする。その時ふいに、緑谷くんから一括送信で位置情報が送られてきた。なんだろうと場所を見ると今降りたばかりの保須市で、それ以降彼からはなんの通知も来なかった。
彼が無意味に位置情報だけ送ってくるなんてことあるのか、もしかして死柄木達に遭遇したのではと思い、明るく燃え上がっている方向と少しずれた場所に向けて足を進める。
なるべく急いでその場所に向かうと、何やら燃えるような赤が見えてきたためその角を曲がった。

曲がった先でぼそぼそと誰かの声が聞こえてきて走ってそちらに近づく。そこには何だか見たことのある風貌の倒れた男と、そいつの武器を全て回収している飯田くん、ゴミ箱を漁ってロープを引っ張り出している轟くん、プロヒーローにおぶさった緑谷くんがいた。
私の存在にいち早く気がついた轟くんは、倒れた男を拘束しながら

「名字も来たのか」

と言った。死柄木達に会ってから、誰とも会わずにここまで来たからか見知った顔に安堵感が押し寄せてきて、みんなぁと泣き声になりながら轟くんに飛びついた。

「どうした、名字」

冷静な轟くんから離れ、頬の傷に触れる。次に緑谷くん、飯田くんの順で抱きつくと恐怖心も薄れてきて自然に笑顔になれた。

そうしているうちにプロヒーローがわらわらと集まってきて、縛られた男をみてヒーロー殺しと言った。

「えっまさかヒーロー殺しをみんなで倒したの…?」

顔を見合わせたみんなに、何とも言えない気持ちになる。ルール的にいえば、ヒーローの免許を持っていない彼らが公道で個性を使ったことはいけないことであるが、ヒーロー殺しと呼ばれるほどの敵を、自分と同い年の彼らが倒したと思うとすごく眩しく感じた。

「名字さんの職場体験先ってこの辺りだったの?」

「あ、そうだ。私一度雄英に戻らなきゃいけないの」

緑谷くんに話を振られて我に帰る。敵連合から逃げてきたことを今は言う必要ないと判断し、職場体験頑張ってね、とだけ付け足して彼らと別れた。その後は降りた駅に引き返し、今度こそ途中下車せずに雄英高校に到着する。もう夜ではあるが、きっといるだろうと思い職員室の扉を開いた。
電気が疎らに付いている職員室の中で、黒い衣服に包まれた我が担任を視界に捉える。

「相澤先生」

「こんな時間にどうした。ていうか名字、お前まだ職場体験中だぞ」

「敵連合に会いました」

もっともな先生の話に、職場体験先のことを伝えると、険しい顔でこちらを見られるが、そのまま続ける。

「私の職場体験先に、死柄木と黒霧がいて、それで、逃げてきたんです」

ばっと立った先生に両肩を掴まれ、体を気遣うようにぺたぺた触れられる。

「逃げてきたってお前…ひとりでか?助けは呼んだんだろうな。大丈夫だったか?」

先生の心配するような声と優しさに、緑谷くん達の前ではこぼさなかった涙が溢れてくる。

「戦いもせずに逃げてきたんです…ごめんなさい」

戦うことがヒーローになるために必要なことではない。それは理解しているが、きっとこの時の私は、ヒーロー殺しを倒したクラスメイトの存在を意識してしまったのだろう。

その後は相澤先生の目を見れず、下を向いたまま先生の胸に頭を預けた。